なぜ鴻海は日産を買収したいのか

 鴻海は、米アップルのスマートフォン「iPhone」を受託生産していることで有名だが、次の成長ビジネスとして、人工知能(AI)やサーバー、ヘルスケア、EVなどを重点事業と位置付けている。24年10月に台湾で開催された鴻海の技術説明会に筆者は参加したが、新たにクロスオーバータイプのEV「モデルB」とピックアップトラックタイプのEV「モデルV」を公表した。

 鴻海のビジネスモデルは「CDMS(設計・製造受託サービス)」と呼ばれ、スマートフォンと同様にEVでもCDMSを強化したい考え。こうした中、鴻海にはまだ足りない技術もあるため、劉CEOの意向で自動車メーカーの買収に動く方向になったようだ。

今年10月に台湾で開催されたホンハイテックデイ (写真:井上久男、台北にて)

 日産とホンダの資本提携交渉の話に戻ると、筆者は資本提携にまで踏み込む局面にはまだないと考える。

 日産は11月7日の中間決算発表の場で、全社員の7%に当たる9000人、生産能力の削減などのリストラ計画を発表。25年3月期決算では最終赤字になることが想定される。

 内田社長は「稼げる車がない」と発言。商品力の低さから実質値引き販売しなければ車が売れない状況で、ドル箱市場の北米地区で営業赤字に陥っている。市場関係者の中には「日産の再建はかなり厳しい道のり」と見る向きも多い。

 一方でホンダはこれまで安定的な業績を残しているが、二輪事業の収益で低収益の四輪事業が支えられている面がある。さらに、ホンダは30年度までにEV関連に10兆円投資し、200万台の生産を目指す目標を掲げているが、EVシフトの後退により、こうした計画の一部を見直す局面にある。

 両社とも足元の経営で、大リストラを行うか、戦略を見直す状況になっており、そうした課題への対応を優先させ、課題を解決してから資本提携に踏み込むべきではないかと筆者は考える。

 特に日産の経営状況は、25年前にルノーの傘下に入った時のように、経営危機寸前の状況にある。11月7日に発表したリストラ計画だけで到底再生できるとは思えない。日産社内にもこれと同様の見方があるほどだ。