政権の枠組みは4パターンが考えられる
<参院選の帰趨は?>
繰り返しになるが、参院選の帰趨により、政権の枠組みや安定性が大きく変わる可能性がある。どのような新政権の枠組みとなるか、様々なパターンを考え得る。
大きく分ければ、①与党による連立政権拡大、②野党結集による政権交代、③大連立、そして④少数与党──の主に4パターンが考えられる。いずれにせよ、どの党が協力するかの組み合わせ次第で、政策運営は大きく異なってくる。
ただ、参院選前に政局が起こるか否かも不透明な状況のため、参院選の帰趨を現段階で予想するのは難しい。基本的には、石破政権の内閣支持率の行方により、春以降の政局の有無も、参院選の帰趨も定まってこよう。
<過去には小渕政権の例外も>
過去をみれば、ほとんどの政権において、内閣支持率は発足直後が最も高く、その後は徐々に下がっていく。だが、例外もある。
例えば、小渕政権の内閣支持率は、1998年7月の発足当初こそ低いスタートであったが、徐々に盛り返した。
当時、参院過半数割れの「ねじれ国会」での政権発足であったが、金融危機への対応で野党案を丸飲みしたほか、自由党や公明党と連立政権を組むことで参院過半数を確保するなど、他党との協調を通じて政権運営を安定させ、世論の支持を獲得した。
現在の石破政権は少数与党であり、小渕政権と状況が似ているとも言える。このところ、所得税減税などを掲げる国民民主党の支持率が上昇傾向にある。石破政権は、国民民主党が主張する政策をある程度取り込むことで、自らの支持率向上を目指すという選択肢を採り得る。
なお、石破政権の支持率が高まる、もしくは「石破おろし」後の自民党新政権発足で高い支持率となるケースでは、参院選を控えて衆院を解散、衆参同日選挙(ダブル選挙)とする可能性がある。
ダブル選挙は公明党が否定的なこともあり、1986年7月以来、長らく実施されていない。だが、衆院が少数与党の状態であれば、状況打開のためダブル選挙とするインセンティブが自民党には存在する。
先述のように、衆院選と参院選が重なる場合、野党において選挙協力の難易度が上がるという理由もある。
<経済政策の行方>
参院選後は、どの党が協力するかの組み合わせ次第で、政策運営が大きく異なってくる。11月3日付けの拙稿「少数与党として発足しそうな第二次石破政権、「石破おろし」があるとすれば来春以降か」でも指摘したように、経済政策の方向性は、各党で大きく異なる点に注意する必要がある。
財政政策については、石破首相はもともと拡張的な路線である。さらに、国民民主党の協力を仰ぐこともあり、積極財政路線が採られやすい。現に、2024年度補正予算案が拡張的であるほか、2025年度当初予算案には所得税減税が盛り込まれる方向だ。
金融政策については、日銀による金融政策正常化が推進されよう。
なお、2025年中、安達審議委員が3月25日に、中村審議委員が6月30日に、それぞれ任期満了を迎える。石破政権が後任を選ぶことになるが、日銀審議委員は衆参両院による同意人事である。両院の賛成が得られなければ、白紙となる。
石破政権は、衆院で国民民主党の協力を得る必要があるため、どちらかといえば金融政策正常化に慎重な候補を選びやすいのではないか。ただ、中村委員はもともとハト派である。正常化推進の方向に変わりはないだろう。
【宮前 耕也(みやまえ こうや)】
SMBC日興証券㈱日本担当シニアエコノミスト
1979年生まれ、大阪府出身。1997年に私立清風南海高等学校を卒業。2002年に東京大学経済学部を卒業後、大阪ガス㈱入社。2006年に財務省へ出向、大臣官房総合政策課調査員として日本経済、財政、エネルギー市場の分析に従事。2008年に野村證券㈱入社、債券アナリスト兼エコノミストとして日本経済、金融政策の分析に従事。2011年にSMBC日興証券㈱入社。エコノミスト、シニア財政アナリスト等を経て現職。
著書に、『アベノミクス2020-人口、財政、エネルギー』(エネルギーフォーラム社、単著)、『図説 日本の財政(平成18年度版)』および『図説 日本の財政(平成19年度版)』(東洋経済新報社、分担執筆)がある。