人の振り見て我が振り直せ

 かつて、私の大学の先輩にこんな人がいました。

「おう、君か、慶應初の落語家は?」と聞いてくるので、「はい、私よりだいぶ先輩になりますが、昔川上音次郎が一時期落語家を名乗っていました」と応えました。

 川上音二郎は「おっぺけぺ節」で一世を風靡した明治時代の人で、すでに他界しています。慶應義塾の創始者である福澤諭吉先生の書生として学んでいたそうです。

 するとその先輩は、「ああ、川上か。最近テレビに出てこないなあ」……。

 そりゃ、出るわけありませんから(笑)。

「振」という漢字から今年1年を振り返り、強引にこじつけているうちに「千早振る」という落語の話になってしまいました。とりとめのない連想をしてきたわけですが、来年以降の教訓として、「知ったか振りをやめる」ことも一考に値するのではないでしょうか。

 謙虚に知らないことを認め、必要な情報を確かなソースから集め、しっかりと何が正しいかを判断する習慣をつければ、日々ネットやSNSにあふれるフェイクや誤情報などにも惑わされることも少なくなるのではと、思うわけであります。

「人の振り見て我が振り直せ」

 自戒を込めて、肝に銘じたいと思います。

立川談慶(たてかわ・だんけい) 落語家。立川流真打ち。
1965年、長野県上田市生まれ。慶應義塾大学経済学部でマルクス経済学を専攻。卒業後、株式会社ワコールで3年間の勤務を経て、1991年に立川談志18番目の弟子として入門。前座名は「立川ワコール」。二つ目昇進を機に2000年、「立川談慶」を命名。2005年、真打ちに昇進。慶應義塾大学卒で初めての真打ちとなる。著書に『教養としての落語』(サンマーク出版)、『なぜ与太郎は頭のいい人よりうまくいくのか』(日本実業出版社)、『いつも同じお題なのに、なぜ落語家の話は面白いのか』(大和書房)、『大事なことはすべて立川談志に教わった』(ベストセラーズ)、『「めんどうくさい人」の接し方、かわし方』(PHP文庫)、小説家デビュー作となった『花は咲けども噺せども 神様がくれた高座』(PHP文芸文庫)、『落語で資本論 世知辛い資本主義社会のいなし方』など多数の“本書く派”落語家にして、ベンチプレスで100㎏を挙上する怪力。