(数多 久遠:小説家・軍事評論家、元幹部自衛官)
シリア情勢が急転しています。タハリール・アル・シャーム機構(以下、HTS)を中心とした反政府勢力が、アサド大統領率いるシリア政府軍に攻勢をかけ、一晩で北部の要衝アレッポを陥落させました。
アレッポは、2011年から続いているシリア内戦の中、「アレッポの戦い」と呼ばれる激戦の後、シリア政府軍が掌握した都市です。アレッポの戦いは4年半にも及ぶものでしたが、シリア政府軍はそれを一夜で明け渡したことになります。
これは、アレッポの戦い終結から8年が経過し、大きな背景情勢の変化が起きた結果です。以下では、なぜこのような情勢の急転が起きたのか、その理由と今後の展望を概括します。
シリア内戦から反政府勢力の攻勢が始まるまで
まず、これまでのシリアの状況を確認しておきます。
シリアは歴とした独立国ですが、2010年から始まったアラブの春に触発された反体制派が大規模な武装蜂起を行った結果、2011年から内戦状態が続いています。内戦の悲惨な状況は日本でも報じられており、前述のアレッポの戦いを描いた映画『娘は戦場で生まれた』は有名です。
しかし、内戦の全体像、構図はあまり知られていません。反体制派は、合従連衡を繰り返しているため、現在の状況だけ示します。