中国は破壊的な競争力を武器に日米欧を追い詰める

 今年第1四半期のEV販売台数はインド、中国、フランス市場がこの1年間にそれぞれ39%、37%、20%伸びたのに対し、イタリア、日本、ドイツは24%、9%、3%も縮小。欧州の自動車産業は推定で10万人削減に踏み切る恐れがある。

 フォルクスワーゲン乗用車部門トップのトーマス・シェーファー氏は中国製EVとの価格競争を「破滅的」と表現する。25年末までに計画されているリチウムイオン電池の生産能力はその年に予想される世界の電池需要の5倍以上だ。中国の過剰生産能力がバッテリーの価格破壊を引き起こすのは間違いない。

 中国のバッテリーは激安で、LFP(リン酸鉄リチウムイオン)電池は23年の世界平均で95ドル/キロワット時、中国は24年1~4月平均で53ドル/キロワット時だ。中国は破壊的な競争力を武器に日米欧の自動車産業を追い詰め、第三世界を抱き込みつつある。

2024年9月5日、中国の電動SUV「オモダE5」が英国のブリストル港ロイヤル・ポートベリー・ドックに到着した(写真:ロイター/アフロ)
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 筆者がウクライナ支援のため中国浙江省の工場で買い付けた折りたたみ式電動車いすはポーランドの港までの海上輸送費込みで1台430ドル。評判も上々だった。同じタイプの電動車いすはウクライナのオンラインショップで8倍近い値段がついていたのでめまいを覚えた。

【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。