チャウシェスク政権の悪夢が中国にも?
日本でも、国政政党党首がSFの話として「30歳を超えたら子宮摘出」といった女性の人権を人質にとって出生率を上げる政策を紹介して、大いにバッシングされた。だが、中国の場合、こうした政策はまったくSFの話ではなく、過去にも一人っ子政策という恐ろしい産児コントロールをやってのけた。
この一人っ子政策によって、およそ4億人の人口増が回避されたという。山東省出身の人権活動家である陳光誠は、今回の新婚育政策は、かつての一人っ子政策の別バージョンでしかない、と非難している。「中国共産党の暴力的に出産コントロール政策だ。人の出産育児の概念を改変するだけでなく、人の基本的価値観も改変し、生命の尊厳を非常に破壊するもの」という。
陳は、一人っ子政策による強制堕胎や強制避妊手術によって女性の人権と健康が侵害されていると告発したことで、政府から強烈な弾圧を受けた経験がある。
かつてルーマニアのチャウシェスク政権では、人口を増やすと国力がつくとして、避妊と中絶を事実上禁止し、子どもが4人以下の家庭に「少子税」を課し、妊娠可能年齢の女性には「月経警察」の異名をとる政府の医師が毎月検診を行った歴史がある。
同様の政策が習近平政権で復活する可能性があるのではないか、と多くの人たちが内心、この「新婚育政策」の行く末を見守っている。
福島 香織(ふくしま・かおり):ジャーナリスト
大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。おもに中国の政治経済社会をテーマに取材。主な著書に『なぜ中国は台湾を併合できないのか』(PHP研究所、2023)、『習近平「独裁新時代」崩壊のカウントダウン』(かや書房、2023)など。