生産ラインで働く人が消える

 この想定が意味しているのは、1つの産業の生産物の価格が相対的に低下するにつれて、その生産物の購入額が所得に占める割合も下がっていくということだ。

 また、どの国においても3産業の労働力の割合は、19世紀初めの米国と同様な値からスタートしたと仮定する。

 すると、米国をはじめとする今日の高所得国(食料の一部を輸入した都市国家は除く)では、同じパターンが見られることが分かる。

 まず、食料価格の下落と所得の増加という2つのプラスの力が製造業に向かう支出を増やし、製造業で働く人の割合を押し上げる。

 ところが、ここに2つのマイナスの力――製造業の生産物の価格がサービス業のそれに比べて相対的に安くなることと、サービス業の生産物の需要の所得弾力性の方が高いこと――が作用する。

 当初は、農業革命の規模があまりに大きいために、製造業に及ぶプラスの効果が優勢となる。

 しかし、しばらくすると農業の産業規模が非常に小さくなり、製造業に好影響を与えることができなくなる。

 すると今度は、製造業とサービス業で働く力が優勢になり、製造業従事者の割合が下がり始める。

 米国では、製造業で働く人の割合がもう70年間減り続けている。

 このプロセスは反転しうると考えるのはばかげている。水が低い方に向かって流れていくのは、ちゃんとした理由があるからだ。

 製造業では繰り返しの多い作業を正確に、それも制御された環境で行う必要がある。ロボットを利用するにはうってつけだ。

 圧倒的な確率で20~30年後には生産ラインで働く人が一人もいなくなるだろう。

 いろいろな意味で残念ではある。だが、生産ラインでの仕事は人間性を奪うような仕事でもあった。

 郷愁を抱きながら必然的に消えていく過去に憧れるよりも、もっとましなことができるはずだ。