イランとサウジアラビアが接近、緊張緩和に期待
イスラエル軍による周辺諸国への攻撃が続いているが、市場で材料視されることはほとんどなくなった感がある。むしろ、事態改善の動きに関心が集まっている。
トランプ次期政権がイランへの圧力を強めることは確実視される中、米国の同盟国であるサウジアラビア軍のルウィーリ参謀総長は11月10日、イランの首都テヘランでイラン軍のバゲリ参謀総長と会談し、国防分野における協力について協議した。中東の覇権を争う地域大国の軍高官同士が会うのは異例のことだ。
サウジアラビアのムハンマド皇太子とイランのペゼシュキアン大統領も同日に電話会談し、2国間関係の強化を確認している。
ムハンマド皇太子はサウジアラビアの首都リヤドで11日に開かれたアラブ・イスラム諸国臨時首脳会議の場でも、イスラエルによるイランへの攻撃を阻止し、イランの主権を尊重するよう国際社会に求める発言を行っている。
大国イランとの緊張緩和はサウジアラビアの安全保障にとって大きなプラスだが、「原油価格の下支え」がなくなることにもなる。
原油市場では1バレル=65ドルに近づくと「買い」が入る展開となっている。だが、ここに来て「下抜け」する懸念が生まれている。
IEAは「OPECプラス(OPECとロシアなどの大産油国で構成)が減産を維持した場合でも、世界の原油供給は需要を日量100万バレル以上上回る」としているように、供給過剰の懸念が強まっているからだ。
OPECプラス(OPECとロシアなどの大産油国で構成)は12月1日に閣僚級会合を開催し、来年の方針を決定する。11月3日に増産計画(日量18万バレル)を来年1月に延期したが、再度延期したとしても原油を上昇させる効果はほとんどないだろう。
OPECプラスは既に大規模減産(日量586万バレル)を実施しているが、筆者は「さらなる減産の決定がなければ、原油価格は60ドル割れする」と考えている。
OPECプラスは苦渋の決断を下すことができるのだろうか。
藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。