高額年俸選手のけがのリスク、誰がどう負う?
MLBのロブ・マンフレッド・コミッショナーは、現役メジャーの選手派遣には懐疑的な姿勢を見せていた。
ところが日刊スポーツによれば、大谷選手が7月に会見した翌日に取材に応じた際には、球団オーナーたちとは話していないと断った上でロス五輪のチェアマンと協議していたことを明かし、「ロサンゼルスなら我々も話し合う必要がある。『シーズン中ということに関して、どういう妥協案を作れるか』などについて話し合った。まだ扉(可能性)は開かれている」などとコメント。スポニチは、一部のオーナーは選手の派遣に前向きな姿勢だと報じる。
野球の国際大会としては、五輪とWBC以外に、国際競技団体の世界野球ソフトボール連盟(WBSC)が主催し、現在は日本で開催中(11月10~24日)の「プレミア12」も存在する。日本代表はプロを派遣するが、若手中心で構成され、こちらもメジャーは選手を派遣していない。
国際大会の代表派遣については、巨人やメジャーで活躍し、2004年アテネ、08年北京と五輪2大会、さらに06年WBCにも出場している野球解説者の上原浩治氏が、自身のコラムで「日本代表もプロはWBC、五輪はアマチュア」に区分けすることを提言するなど、議論の余地はありそうだ。
また、実際にメジャーリーガーがロス五輪に参加する場合には、メジャー球団が高額な年俸を支払う選手たちが五輪でけがをした場合のリスクが課題となる。リスクに対応した保険金の負担に加え、五輪と時期が重なるシーズン日程をどうするか。チームによって参加選手の数にバラツキが生じる可能性が高く、選手にかかる負担の不公平といった労使問題も浮上するだろう。
ワールドシリーズを頂点とした世界最高峰の戦いを標榜するメジャーとして、五輪をブランド戦略などの観点からWBCとどのように差別化するのかといった点についても、議論は深まっていない。
現状を分析しただけでも、「高額年俸選手のけがのリスク」「シーズンの日程調整」「WBCとの棲み分けとブランド戦略」と少なくとも主に3つのクリアすべきハードルがある。一方で、米国の野球ファンは高齢化の傾向を指摘する向きもあり、人気は決して安泰とはいえない。
そんな中で、大谷選手のように代表チームでプレーした経験を持つトップ選手の発信力が、メジャーと五輪の関係にどのような影響を与えるか。今オフの関心事がまた一つ増えた。
田中 充(たなか・みつる) 尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授
1978年京都府生まれ。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程を修了。産経新聞社を経て現職。専門はスポーツメディア論。プロ野球や米大リーグ、フィギュアスケートなどを取材し、子どもたちのスポーツ環境に関する報道もライフワーク。著書に「羽生結弦の肖像」(山と渓谷社)、共著に「スポーツをしない子どもたち」(扶桑社新書)など。