ソ連石油工業省への先祖返り

 ソ連経済に明るい識者なら、これはソ連石油工業省への「先祖返り」だと思いつくだろう。ソ連時代、石油の生産と輸出はソ連石油工業省が独占して担っていた。このソ連石油工業省を母体に設立されたのがロスネフチだ。ロシアがウクライナに侵攻する前まで、ロスネフチには英BPなども出資していたが、現在は撤退している。

 ロスネフチの株はモスクワ証券取引所に上場しているが、事実上、ロシア政府が唯一のオーナーだと言っていい。このロスネフチの下にガスプロムネフチとルクオイルを合併させたのち、非公開会社とすれば、純粋な国有企業となり、その利益はダイレクトに国庫に入ることになる。まさに、ソ連石油工業省時代と同じ構造になるわけだ。

 新たに「ロシア石油工業省」が出来上がるとして、短期的なメリットは、やはり歳入の増加が見込まれることにある。最新7-9月期のロシアの連邦財政収支は0.8兆ルーブルの黒字と4四半期ぶりのプラスとなったが、ウクライナとの戦争の長期化で軍事費を中心とする歳出が膨張しているため、予断を許さない状況にある(図表2)。

【図表2 ロシアの連邦財政収支】

(出所)ロシア財務省(出所)ロシア財務省
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 ロシアの2025年度の予算案では、資源価格の下落や経営が悪化するガスプロムへの減税措置などから、石油・ガス収入の減収が織り込まれている。一方で、ロシア財政にとって石油・ガス収入は命綱であることから、有力石油会社3社を合併して国の管理下に置き、石油部門からの収入の確保に努めたいという動機が政府に働くのは当然と言える。

 他方でデメリットは何かというと、政府の影響力が強まることで、経営が放漫になることがある。国営企業でも株式を上場していれば、株価を通じて経営に健全化の圧力がかかる。しかし上場を廃止すれば、企業は政府による補助金を期待し、合理化に向けた取り組みを放棄する。いわゆる「ソフトな予算制約」の下で、企業の経営は悪化する。