中絶が事実上、米国全土で禁止される懸念も

 この文書は「次の保守系大統領」に対する要望リストで、900ページ以上にわたるプロジェクトの「計画書」だ。これによれば、2022年に一部の州で実施された中絶禁止や制限は「始まりにすぎない」という。

 提言の1つに、CDC(疾病対策センター)による中絶の「監視強化」がある。CDCは米国内のほとんどの地域から中絶に関する情報を収集しているが、カリフォルニアやメリーランドなど一部の州はデータを提供していない。プロジェクト2025は、国内の正確な中絶の数や方法、理由、母親の居住地を報告することを要求している。

 また、中絶に関するプライバシー保護を撤回させるという提言もある。バイデン政権は2022年の最高裁判断ののち、医療従事者は当局に対し、中絶に関する情報について「厳密に調整された」場合にのみ提供できるという指針を策定した。プロジェクト2025は、この指針の撤回を促している。

出所:「Project 2025」のウェブサイト

 こうした監視強化は、女性が中絶薬などを使って自分で中絶した場合、当局がその罪を問える道筋を作るものだと指摘されている。英ガーディアン紙によれば2000年からの20年で、61人が自ら中絶した、あるいは他者の中絶を補助したことなどにより、逮捕されたり捜索を受けたりしたという。

 プロジェクト2025はその上、中絶薬の承認の取り消しや、19世紀に制定されていた法に基づき、中絶薬の郵送の非合法化も提案している。ガーディアン紙は反中絶活動家らが、中絶薬だけではなく、中絶に必要な医療器具まで郵送を禁じるよう動くのではないか、という懸念も広がっていると伝えている。医療器具の輸送禁止はすなわち、事実上の中絶の完全禁止につながりかねない。

 トランプ氏は選挙戦の候補者討論などで「プロジェクト2025など無関係だし、読んでもいない」として、計画書を作成したヘリテージ財団とのつながりを否定している。しかし、ガーディアンはプロジェクト2025の大半が、トランプ氏の関係者によって執筆されたとしている*3

*3‘I have nothing to do with Project 2025,’ Trump says | ABC Presidential Debate(PBS NEWS、YouTube)

 ヘリテージ財団は過去に、旧統一教会との関連を指摘されている。ヘリテージ財団が主張する「伝統的な家族像」の押し付けなど、日本において自民党が旧統一教会によって影響を受けたとされる価値観にも重なる*4

*4The GOP’s Own Asian Connection: Rev. Moon(Los Angels Times)