【仮説2・上】「地球」と同サイズなら?

1988年2月10日、『ドラゴンクエストIII』が発売され、1日で100万本が完売。当日は徹夜組や学校をさぼった若者たちも出るなど人気が過熱、警視庁は283人を補導した。写真は東京・池袋のビックカメラに並んだ行列 写真/共同通信社

 もうひとつ仮説を立ててみよう。

 今度は逆に、こちらは勇者視点を疑って、勇者たちのいる「ちきゅう」を「地球」と同じサイズで考えてみるのだ。

 そもそも勇者の視点はおかしい。勇者が歩かないと時間が動かないのもそうだが、ラナルータの呪文で、昼夜がひっくり返ってしまうのに、納得できる人がいるだろうか。

 あれは今の昼から未来の夜へ、今の夜から未来の昼へタイムワープしていると考えるのが妥当だろう。ルーラやキメラの翼にしても、一瞬でどこへでもテレポートするのはやはりおかしい。これらを使うと必ず朝が来るということは、こちらもそれなりの時間と空間を要していると思われる。「ルーラ!」と唱えて、エジンベアからテーベの村に移るのも数秒ではなく、数日から数ヶ月かかっているのではなかろうか。

 ルーラやキメラの翼には、徒歩で移動するよりも時間がかかるなどのリスクがないと、魔物も出るような世界をわざわざ歩いて旅行する必要がなくなる。

 ともあれ、歩数で時間が変わるのは、あくまで演出の範囲であろう。勇者たちは、物資の調達、野営地の設置、食事や睡眠を摂っているはずである。ゲームで省略されている集落への訪問もあるに違いない。大陸に「村」が片手で数えられる程度しかないとは思えないからだ。

 「地球の外周4万キロメートル」÷「ちきゅうの外周256歩」で計算すると、1歩は156.25キロメートルになる。

【仮説2・下】大魔王討伐に一生を費やした?

 1日の歩行距離を25キロメートルほどと試算するなら、1歩を移動するのに6.25日間を要する。さらに天候の問題や地形の問題など移動できない停滞時間も視野に入れると、1歩およそ1週間としよう。

 仮説2では、仮説1の175倍以上の移動時間を要するものとなる。単純に計算するから、180日×175なので、大魔王討伐に要する時間は、3万1500日。

 なんと大魔王討伐に86年以上もかかったことになってしまう。

 仮説2の方法で考えると、さすがに無理があるので、仮説1のようにあの世界は地球とは別の異世界と考えるほうがよさそうだ。

 とはいえ、仮説1にもツッコミどころは多いので、みなさんも新たな冒険に挑みながら、別の視点から新たな仮説を打ち立ててもらいたい。

 

【乃至政彦】ないしまさひこ。歴史家。1974年生まれ。高松市出身、相模原市在住。著書に『戦国大変 決断を迫られた武将たち』『謙信越山』(ともにJBpress)、『謙信×信長 手取川合戦の真実』(PHP新書)、『平将門と天慶の乱』『戦国の陣形』(講談社現代新書)、『天下分け目の関ヶ原の合戦はなかった』(河出書房新社)など。書籍監修や講演でも活動中。現在、戦国時代から世界史まで、著者独自の視点で歴史を読み解くコンテンツ企画『歴史ノ部屋』配信中。