中さんは「一市民に『不当な公金の支出だ』と言われるのとは違って、市は監査委員会にそう指摘されれば対応せざるを得ない。そういう制度です。まもなく、金沢市は工業用水の水利権を石川県に返上することになったんです」と誇らしげに思い出してくれた。
住民監査請求制度は、その自治体住民なら誰でも利用可能だが、このような成果が出ることはまれなのだ。
結果として、犀川ダムに確保していた水利権は返上され、金沢市の無駄な支出は止まり、辰巳ダムの利水容量240万m3はゼロになり、治水目的だけが残されることになり、ダム容量も880万m3から600万m3と小さくなった。
勝ち取った「辰巳用水」の保護と周辺の景観
その間、全国で無駄なダム事業と環境破壊への批判は高まり、1997年の河川法改正で、第1条(目的)に治水と利水に、「河川環境の整備と保全」が追加された。この新法に基づいて、2005年3月に「犀川水系河川整備計画」が策定された時、辰巳ダム計画は、当初の計画とは違うものになった。
住民運動が一つ一つ獲得した成果が反映された。
まず、「辰巳東岩取入口の保全・保護が図られるよう位置を設定し、周辺の景観に配慮したデザインとする」との文言が明確に記された。
そこで、ダムの壁が左岸に接する位置を軸として、右岸だけ150m上流側に回転させ、辰巳東岩取入口が破壊されないよう避けるデザインとなった。さらに、取入口での取り入れが可能なように、ダム右岸側に辰巳用水のための「低水放流口」が設置された。
そして、辰巳ダムは水を貯めない流水型ダムとなった。利水容量が消滅した分、ダム堤体は5m低くなった。
「共有地運動もやって土地収用法に基づく事業認定に対しては取消訴訟も行い、最高裁はダム完成後の2017年まで続き、勝つことはできませんでしたが、振り返れば私たちは負けてもいない。この運動は、後続の運動の参考になると思って、記録集『うつくしき川は流れたり』を作って石川県下のすべての大学・高校図書館と県立図書館などに寄贈しました」と碇山教授は静かに語った。やれるだけのことをやり尽くした人の顔だった。