『源氏物語』の作者、紫式部を主人公にした『光る君へ』。NHK大河ドラマでは、初めて平安中期の貴族社会を舞台に選び、注目されている。第41回「揺らぎ」では、新たに即位した三条天皇が政治のイニシアチブを取ろうとする。今こそ藤原道長を支えた「四納言」の団結力が問われるが、不穏な空気も流れ始めて……。『偉人名言迷言事典』など紫式部を取り上げた著作もある、偉人研究家の真山知幸氏が解説する。(JBpress編集部)
『光る君へ』での三条天皇は道長の好敵手か?
あの歴史人物は、実はこんなパーソナリティーを持っていたのではないか。従来とは異なる人物のイメージが打ち出されたりするのが、歴史ドラマの面白いところだ。特に1年と長期にわたって放送されるNHK大河ドラマでは、主人公のみならず周辺の人物のキャラクターも深掘りされるので、見応えがある。
『光る君へ』では、藤原道長が父・兼家の五男として生まれて出世の見込みがもともと薄かったことや、兄たちの相次ぐ死によってたまたま政権が転がり込むという幸運さに注目。青年時代の道長を「出世とは縁遠いぼんやりとした人物」として描き、そこから最高権力者となるプロセスを丁寧に描写してきた。
それも荒唐無稽なものではなく、藤原実資(さねすけ)の『小右記』、藤原行成(ゆきなり)の『権記』、そして道長自身の『御堂関白記』などの日記の記述にも基づきながら、道長の意外な一面を打ち出している。もっぱら「傲慢でワガママ放題だった貴族のトップ」とされてきた道長像に一石を投じたといえよう。
これまで道長の傲慢さが強調されてきた理由の一つとして、三条天皇を退位に追い込んだことが挙げられる。三条天皇の即位とともに、自分の孫、敦成親王(あつひらしんのう)を皇太子にすることに成功した道長。あとは三条天皇が退位すれば、天皇の外戚としてその地位は盤石となる。眼病を患い苦しむ三条天皇を、道長は容赦なく追い詰めていった。
『光る君へ』では道長を傲慢な人物として描いていないだけに、どんなふうに三条天皇に退位を迫るのかに注目しているが、今回の放送を見る限り、三条天皇の狡猾さを強調することで、道長による反撃を視聴者に期待させるストーリー展開となりそうだ。