長期予測で被害を小さく
地震の長期予測は、自治体が災害対策を進めたり、住民の防災意識を高めたりするのに役立ちます。建物の耐震補強や防潮堤・津波避難タワーの建設、住民の避難訓練や防災グッズの準備などで、多くの人命が守られるでしょう。
中央防災会議は南海トラフ地震による最大死者数の想定を、2012年の32万3000人から、2019年には23万1000人に減らしました。なかでも津波による死者数を最大7万人も少なくしました。これは官民の防災対策の進展を反映させて再計算した結果です。しかし、減ったとはいえ死者数はまだ膨大であり、対策は未だ不十分と言わざるを得ません。
政府は2013年に国土強靭化基本法を制定し、翌年に国土強靭化基本計画を策定しました。「国土強靭化」とは、地震を含め、あらゆる大規模自然災害から人命を守り、社会・経済への被害が致命的にならずに速やかに回復する国土を構築するという意味です。南海トラフ地震が目前に迫っているいま、国土強靱化を急ピッチで推し進める必要があります。
地震の直前予知は実現に近づいているか
一方、直前予知の分野でも、明るい兆しが見えてきました。1つは、地震が起こる地下ではなく、上空の電離層の異常を捉える方法です。電離層とは、地表から60〜1000kmの高さにある電気を帯びた大気の層です。じつは、地震発生直前に電離層が異常を示すことが以前から知られていましたが、それと地震との関係は長い間不明でした。
ところが今年(2024年)京都大学の研究グループが、地震直前の高温高圧の岩盤に含まれる水に大きな電圧が生じることを突きとめました。この地下の電圧によって上空の電離層が乱されていたのです。地震は電離層の異常の数時間から数日後に発生することが多いとされます。
一方、地下の研究からも予知の突破口が見出されつつあります。トラフや海溝のプレート境界では、海洋プレートの動きによって境界面が周期的にゆっくりすべっており、これを「ゆっくりすべり」とか「スロースリップ」といいます。スロースリップは人間が感じるほどの地震は起こしませんが、近年スロースリップが活発になったときに地震が発生することがわかってきました。そのため、スロースリップの観測が巨大地震の直前予知に使えるのではないかと考えられています。
とはいえ、電離層の異常やスロースリップの観測で、地震予知の3要素である「時」「場所」「規模」を正確に限定するまでにはさらなる研究が必要のようです。