能力向上の鍵は心のコントロール

 西田氏は、人間の能力を大きく「保有能力」と「発揮能力」の2つに分類する。成長のためには両方の能力を向上させる必要があるという。

「保有能力」とは日々のトレーニングや努力の継続で蓄えられた実力のことであり、「発揮能力」とはその実力を本番で活かす力を指す。

 例えば大谷選手であれば、日々のトレーニングや栄養管理によって驚異的な保有能力を身につけ、さらに試合でそれを最大限に引き出す発揮能力を持ち合わせているということだ。

 西田氏によると、継続的に保有能力を伸ばすためにも、環境に左右されない高い発揮能力を保つためにも、心のコントロールが鍵になるという。メンタル面への意識の差は、成長の差となって現れるのだ。

夏の甲子園出場を逃し、涙をぬぐう花巻東高3年生の大谷翔平選手。挫折も経験しながら、世界最高峰の選手となった(写真;共同通信社)

「プラスの情報」のインプットで肯定的な脳をつくる

 では、心をコントロールするにはどうすれば良いのだろうか。

 西田氏が提唱するのは、脳の構造と働きをベースにした心のコントロール方法だ。脳は「知性脳」大脳新皮質、「感情脳」大脳辺縁系、「反射脳」脳幹の3層構造でできており、特に感情脳にある部位「扁桃核」を重視する。扁桃核は外部からの情報に対して快・不快を判断するセンサーであり、その判断が脳全体に影響するという。

 ピンチの場面で不安や焦りが出てしまうのは、扁桃核がピンチという状況を「不快」と判断した結果となる。逆に言葉やイメージを用いてポジティブな情報を扁桃核に送り込む訓練をすれば、脳全体がプラスに働き、集中力やパフォーマンスが向上する。

 大谷選手がWBC決勝前に「憧れるのはやめましょう」という言葉でチームを鼓舞したのは、相手に呑まれないポジティブな脳の状態を作り出した好例といえる。

 落ち込んだときに励ましを受けて前向きになれた経験などを通じ、ポジティブな情報を取り込む効果を経験則的に知っている人はいるだろう。そのメカニズムを活用したメソッドは、アスリートのみならず、一般のビジネスパーソンに通用するかもしれない。