長老たちとの「和解」を演出?

 たとえば長老と官僚たちが一緒になって習近平に政策の転換を迫り、習近平が政策の失敗を認めて妥協したのではないか。この景気刺激策は、リーマンショック時に首相を経験した温家宝のアイデアで、習近平が譲歩して温家宝に頼ったから、温家宝はご機嫌で建国記念日の宴会で習近平と談笑していたのではないか、というわけだ。

 あるいは、習近平自身が、長老との和解を演出しようと、建国記念の宴席のメーンテーブルに長老を集めたのではないか、という見方もあった。今年8月の北戴河会議中には、習近平と長老の対立に関する「デマ」が盛大に流れていた。温家宝が習近平の側近の蔡奇と李希を「文革時代に回帰しようとしている」と面罵した、とか、長老が習近平に政策について詰め寄って過ちを認めさせ、共青団派の実力派官僚、胡春華に実権を譲るように迫った、とか。

 こうしたデマ・噂は中国国内のSNS内でも意図的に拡散された。それは人民の間で、習近平政権に対する不満の一つの表現方法だと見られていた。

 それで習近平は、自分が人民から嫌われているという危機感をもち、人民に対して、むしろ長老たちと対立していないのだ、長老たちは習近平を支持しているのだ、という団結アピールを演出しようとした。それが今回のメーンテーブルの席順、というわけだ。

 実際のところ、温家宝も習近平から協力するように迫られると、言うことを聞かざるを得ない。相手は粛清の嵐を起こしている独裁者で、温家宝の後継者の李克強は不可思議な心臓発作で急死しているのだ。

 温家宝らが本気で習近平と和解しているなら、きっと29日の音楽会にも出席していたはずなのに、そうしなかったのは、温家宝の方が、不承不承、習近平に協力せざるをえなかったのだ、という意見もあった。