現役時代の萩原智子を強くした言葉とは

シドニー五輪について語る萩原さん

 ペンギンのゆうゆは、仲間やライバルとの繋がりのなかで、本当の“強さ”とはなにかを学んでいくのですが、実は私自身も人との関わりの中で、少しずつ強くなってきたタイプの人間なんです。

 現役時代は、応援してくれる人の傍らで、まったく知らない人に誹謗中傷をされたりもして。

 そんな時、実家の玄関でひとり泣いていたら、母親がなにも言わずに抱きしめてくれて、「智ちゃんはひとりじゃないからね。がんばっていること、お母さんは知ってるからね」って言ってくれたんです。もう涙が止まりませんでした。

 でも、母からは「厳しいことを言ってくれる人に感謝しないとね」とも言われて。正直、なんで感謝しないといけないのかと思ったんですが、「それで智ちゃんが成長できたんでしょ」という一言に、どこか救われた気持ちになりました。

 誰かひとりでも応援してくれれば、私はがんばることができる。母の一言でそう気付いた時、怒りや悲しみが一気に吹き飛んで、言葉の力ってすごいなと感じました。母の言葉が、自分をより強くしてくれたんです。

 また、もうひとつ私を強くしてくれた言葉があって。シドニー五輪で4位で落ち込んでいる私に、“60歳のばあばより”という差出人の方から、お手紙をいただいたことがありました。

 そこには「200m背泳ぎを泳いでいる萩原さんの泳ぎが美しかったです。私は60年間泳いだことがなかったのですが、今近所のスイミングスクールに通っています。泳ぐのが楽しいです」という内容が書かれていて。

 苦しいこともいっぱいあったけど、私がオリンピックで泳いだことにひとつでも意味があったとわかった時、思わず目から涙がこぼれてきました。また私も楽しみながら泳ぎたいと、改めて水泳に向き合わせてくれた一言でした。