中国の海洋侵出を睨んだレプリケーター1

 前述の通り、ヒックス国防副長官は2023年8月、いわゆるレプリケーター1を発表した。

 この背景には、ウクライナ戦争において、ウクライナやロシアが無人機を駆使し、それが作戦・戦闘に重大な影響を及ぼしていることに着目し、無人機の能力について改めて理解を深め、特にウクライナの戦い方を教訓に無人機の大量配備に意欲を示し、米軍の戦略を後押しする形となった。

 その上で、ヒックス副長官は、「中国の最大の利点は数だ。兵士、艦船、ミサイルの数で勝っている。レプリケーター構想は、その利点を打ち負かすための計画だ」と述べた。

 そして、無人機とAIを組合わせた拡張可能な自律型兵器システムを開発し、本格的に配備して中国軍の数に対抗する方針を明らかにした。

 また、ヒックス副長官はウクライナでの戦闘にも言及し、「小型で、精密で、安価で、大量に、生産できるシステム」の開発の必要性についても述べている。

 同副長官は今年3月、数千機の安価でスマートな戦闘用ドローンをネットワーク化して、将来の紛争に対応できるよう配備する「レプリケーター1」に年間約5億ドルを費やす方針を示した。

 そして、2024年度に5億ドル(1ドル150円換算で7500億円)、25年度にも約5億ドルの支出を見込んでいると説明し、この取組みは主に国防総省内部のシステム障壁を減らすための先駆的な役割を果たすとも指摘した。

インド太平洋軍の「地獄絵図(Hellscape)戦略」

 前述のレプリケーター1に基づき、米インド太平洋軍(INDOPACOM)のサミュエル・パパロ司令官(海軍大将)が明らかにしたのが、「地獄絵図戦略」である。

 その目的については、次のように述べている。

「中国軍が台湾海峡を渡ろうとした瞬間に、無人の水上艦艇、空中ドローンおよび潜水艦など数千基/隻を台湾の全周に張り巡らし、事実上の第一防衛線戦力として機能させ、致命的なドローン攻撃によって中国軍を「悲惨な」状態に陥らせる」

 すなわち、中国が台湾に侵攻した場合、米軍が数千の無人機や無人艇などを配備し、対艦ミサイルや潜水艦などの活動と連携することで、台湾海峡に「無人の地獄絵図」を作り出すというものである。

 加えて、米政府は6月18日、台湾の防衛を支援するため小型の武装無人機計1000機以上を売却することを承認し、議会に通知した。

 台湾は、中国との軍事力格差に対応する「非対称戦」で防衛力を高めようとしており、米国の「地獄絵図戦略」と歩調を合わせ、米国から無人機を導入するとともに、台湾での独自開発にも取組んでいる。

 米国が主導し、台湾が呼応・連携する「地獄絵図戦略」が、中国の台湾海峡越え侵攻に重大な影響を及ぼすのは明らかであり、その態勢整備によって中国の武力侵攻の意図を抑止する役割も期待できるのではなかろうか。