人型ロボット Digit(写真:AAP/アフロ)

 米アマゾン・ドット・コムは、小売事業や物流事業でAI(人工知能)をフル活用している。傘下にクラウド事業を持つため、AIモデルの訓練やタスク実行に必要なサーバーを大量に保有している。このことが同社の強みになっているようだ。

 同社は、顧客の購買行動や物流システムに関する大量のデータを収集する上で優位に立っている。現在は、その膨大なデータを使用して、倉庫ロボティクスから配送ルートの最適化に至るまで、様々な用途のAIモデルを開発している。

AIで当日配達拡大

 アマゾンが有料会員プログラム「Amazon Prime」を開始したのは2005年だった。同プログラムの特典の1つとして、購入商品の配達料を無料にしている。05年当時、米国ではその対象商品が100万点だったが今では3億点以上に上っている。米CNBCによれば、05年当時の米国では翌々日配達は珍しいものだった。同社は19年までに、翌日配達の対象商品を数百万点にまで拡大した。そして現在は、より多くの当日配達を実現するためにAIを活用している。

 アマゾンの物流技術及びサービス担当副社長であるスティーブ・アーマート氏は、「この技術を活用して配送ルートを最適化し、より賢い倉庫ロボットを開発している。人間工学に基づく作業環境の改善や、商品の在庫配置にもAIを使っている」と説明した。

倉庫内搬送ロボにAIトランスフォーマー

 同社は20年、トランスフォーマー・アーキテクチャーを用いて、需要予測とサプライチェーン最適化のためのAIモデル開発に着手した。22年からは倉庫内の搬送ロボットにAIトランスフォーマーモデルを追加し、ロボット同士がよりスマートに動き回れるようにした。アーマート氏は「翌々日配達の荷物を運ぶロボットと翌日配達のロボットが遭遇すると、前者は脇に寄り、後者を先に通す」と述べた。

 これらは「GoCart(ゴーカート)」と呼ぶ荷車を持ち上げて搬送するロボットだ。その多くはQRコードを用いて操作するものだが、アマゾンは22年に完全自律走行型搬送ロボット「Proteus(プロテウス)」を開発した。今後はこのProteusの導入を増やす計画だ。

 このほか、商品を梱包(こんぽう)した段ボール箱を、荷かごに仕分ける「Robin(ロビン)」や「Cardinal(カーディナル)」も開発している。22年11月には、商品の仕分けを行うAIロボットアーム「Sparrow(スパロー)」を披露した。これは段ボール箱ではなく、商品パッケージを認識する点が画期的だ。

 23年10月には、出資する米新興企業、アジリティ・ロボティクス(Agility Robotics)が開発した人型ロボット「Digit(ディジット)」の運用テストを開始した。二足歩行ロボットであるDigitは、物流施設内を移動し、二本の腕で物品を持ち上げ、別の場所に移す作業を担っている。