2024年9月20日、日本インカレ、男子100m決勝で優勝した栁田大輝(東洋大) 写真/千葉 格/アフロ

(スポーツライター:酒井 政人)

100mは直前にスタブロの位置を変えた栁田が完勝

 日本インカレ(第93回日本学生陸上競技対校選手権大会)が9月19~22日に神奈川県川崎市のUvanceとどろきスタジアムby Fujitsuで行われた。学生アスリートにとっては国内最高峰の舞台。なかでも今夏のパリ五輪に出場したスプリンターたちが激突した男子の短距離種目は見応え十分だった。

 100m予選はパリ五輪200m代表の鵜澤飛羽(筑波大4)が7組で10秒25(+0.1)をマーク。「しっかり出られて、後半にうまくつなげられた」と約3年半ぶりの自己ベストに笑顔を見せた。

 一方、パリ五輪の4×100mリレー予選で2走を担った栁田大輝(東洋大3)は予選2組で10秒33(+0.6)、準決勝1組は10秒34(-0.7)。いずれも2着通過と精彩を欠いていた。

 しかし、決勝では前回王者が“覚醒”する。

「最後のブロック練習をやった時点で今年一番の感覚で動いていたので、『勝てる』と思いました」

 栁田は前半でライバルたちを引き離すと、10秒09(-0.4)で完勝。井上直紀(早大3)が自己ベストの10秒13で2位、山本匠真(広島大4)が10秒19で3位。鵜澤は10秒28で5位に終わった。

「予選と準決勝はスタートからのっそりした感じだったので、決勝はブロック位置を変更したんです。前足を出して、後ろ足を下げました。そのスタートがうまくハマりましたね」

 強力なライバルたちを抑えて、連覇を飾った栁田。パリ五輪の4×100mリレーで決勝の舞台を走ることができなかった“挫折”が彼を強くした。

「陸上をやってきて、間違いなく一番悔しい思いをしたのがパリ五輪です。今回は(優勝するのは)厳しいんじゃないかと感じている人もいたと思うんですけど、そんな逆境をはねのけてやろうと思っていました。向かい風で10秒0台は初めてですし、力はついてきているのかな。久しぶりに気持ちいいレースでしたね。うちに秘めていたものが爆発したかなと思います」

 一方、予選で好感触をつかんでいた鵜澤は5位に沈み、「いや負けた。みんな速い」と完敗を認めた。パリ五輪は200mで準決勝に進出したが、4×100mリレーの出番はめぐってこなかった。その悔しさを抱えての100m参戦だった。

「パリ五輪のリレーメンバーに選ばれなくて、ずっと納得できなかったんですけど、今日(100mを)走ってみて、実力がなかったことがわかりました。最初から隣の井上君に先行されていたので、相当スタートが遅いんでしょうね。宣戦布告じゃないですけど、ギータ(栁田)と拮抗するかたちになってやっとリレーメンバーに選ばれるんじゃないかな」