すでにグレーゾーンの侵略が始まっている

 だとすると、タイミングを合わせて26日、米ウォール・ストリート・ジャーナルが、複数の米政府当局者の話として、中国で5月下旬から6月上旬にかけて、最新鋭の原子力潜水艦が沈没したことを報じたのもうなずける。中国はICBM発射実験で、解放軍の尊厳、習近平の尊厳を回復しようとしたが、その尊厳を米国が最新鋭原潜沈没という中国が隠蔽している情報を暴露して、追い打ち式に解放軍の尊厳を潰しにかかっているのだ。

 ただ、私は日本人としてはそんなふうに、ただのパフォーマンスだとして、中国のICBM発射実験を軽く見てはならない、と思っている。そもそも、日本上空を通らなかったとしても、隣国日本政府に対しては事前通達すべきであり、いきなりの発射実験は、北朝鮮と同じように、日本に対する威嚇ととらえてよい。

 日本は、最近、解放軍や中国海警局から領空、領海、接続水域への侵犯を受ける頻度が増えており、先日も空母・遼寧が初めて日本の接続水域に入った事件があった。私自身は、これは日本としてはグレーゾーンの侵略がすでに始まっていると深刻にとらえるべきだと考えている。

 そういう中で模擬弾頭とはいえ、核ミサイル実験を行ったことの意味は軽んじるべきではない。実験を行うのは、習近平政権としての尊厳回復、解放軍の面子回復の意味もあるかもしれないが、将来的に核ミサイルを使用しうるという意思があることの表明だ。

 そして、もし、中国が核弾頭を使う可能性があるとしたら、自国の領土が侵略されたとき、つまり、中国が自国の領土だと主張し続けている台湾の統一を実行に移そうとして、米国や日本が妨害したときも含まれる。日本は中国の核ミサイルの標的の一つであるということをこの際、思い出してほしい。

福島 香織(ふくしま・かおり):ジャーナリスト
大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。おもに中国の政治経済社会をテーマに取材。主な著書に『なぜ中国は台湾を併合できないのか』(PHP研究所、2023)、『習近平「独裁新時代」崩壊のカウントダウン』(かや書房、2023)など。