世界に広がった「解放軍はポンコツ」

 まず、この夏の三中全会前に党籍、軍籍、個人財産のすべてを剥奪された元国防部長の魏和鳳はロケット軍出身軍だ。魏和鳳はロケット軍が第二砲兵部隊と呼ばれた時代から司令を務め、2015年にロケット軍に再編成されたのちもロケット軍第一期司令となった。その次の司令の周亜寧、その次の司令の李玉超も魏和鳳の信頼する部下で、ロケット軍は魏和鳳一家と言えなくもなかった。

 だが、2023年7月までにまず李玉超の突然の失脚が明らかになり、続いて周亜寧も失脚。2023年12月までにロケット軍司令経験者、政治委員経験者を含めた幹部の失脚者数は少なくとも9人にのぼった。

 またこのころ、ロケット軍の人事表から細かいオペレーションスケジュールまで米軍に漏れていたことが明らかになり、ロケット軍幹部から米軍に情報がもれた可能性が噂になった。李玉超らロケット軍幹部に続いて現役国防部長だった李尚福も失脚し、解放軍幹部の大粛清が展開された。

 また、彼らの失脚理由の建前は汚職、腐敗で、ロケット軍の汚職があまりにひどく、予算が横領されたことによってミサイル発射の開閉口が整備不良で開かなくなったり、液体燃料タンクに水が入っていたり、といった米情報当局の話がブルームバーグによって報じられたこともあった。

 このことから、解放軍でもっとも優秀とされていたロケット軍までが機能不全に陥っている、つまり解放軍全体がポンコツである、という評判が国内外に流布されたのだった。

 オーストラリアの反共的な華人法学者、袁紅冰によれば、魏和鳳とその部下たちが芋づる式に失脚した背景には、魏和鳳が習近平の国際戦略に反対したことがある、という。

 習近平は国防部長になったばかりの魏和鳳を当初は信頼して、台湾武力統一やロシアからの旧清朝領地域奪還計画の具体的タイムスケジュールを語ったところ、魏和鳳が強く抵抗したのだという。それどころか、部下たちに「習近平がこのような愚かな国際戦略を考えている」と馬鹿にするような言動があり、それが盗聴によって習近平にばれたことから、習近平と魏和鳳の関係に亀裂が入った。そこから魏和鳳への不信がはじまり、さまざまな不正、汚職容疑が洗い出されることになった、という。

 実際、魏和鳳の党籍、軍籍剥奪が発表されたときに公表された調査書によれば、「不忠誠(忠誠失節)」問題があったことは事実のようだ。