気になる今後の利下げ幅

 基本的に利下げ幅は▲25bpで問題ないはずだ。今の局面はあくまで「普通の景気減速(ないし後退)」を受けた利下げ対応であり、「○○ショック」に対する政策運営とは異なる。

 リーマンショック、欧州債務危機、そしてパンデミックなど過去20年弱の間に金融市場は「○○ショック」を重ねて経験し、その都度、中央銀行が大幅な金融緩和を強いられる歴史を目にしてきた。「極端なショック」に「極端な対応」が割り当てられる構図は昔よりも想起されやすいだろう。

 しかし、パウエル議長も会見で「米国経済は良い状態にあり、今日の決定はそれを維持するためのもの」と述べるように、「ショックに対する利下げ」というよりも「ショックを起こさないための利下げ」が企図されているのが実情である。

 現状の米国経済は景気後退に至るかどうかも分からず、CPI(消費者物価指数)やPCE(個人消費支出)が安定的に前年比+2%を割り込んでいるわけでもない。かかる状況下、初手から▲50bp引き下げたのは驚きであったが、あくまで7月のビハインドザカーブを取り戻しただけというロジックならば理解はできる。

 思い返したいのは「のりしろ論」というフレーズだ。

 2015~18年のFRBの利上げ局面において、「いずれ到来する不況で利下げできるように(利下げののりしろを確保するため)、利上げが必要」という考え方が頻繁に言及され、のりしろ論として注目された。明らかに倒錯した理屈だが、当時は支持を得ていた。

 このような経緯を踏まえれば、現在の米国の経済情勢において▲50bpの利下げを連発し、稀少なのりしろを費消すべきではない。

 確かに、フォワードルッキングな対応と言えば聞こえは良い。だが、そもそもスタッフ経済見通しの精度はそれほど高いものではなかったはずである。現実的には、将来ののりしろを気にしながら、定期的な▲25bp引き下げをFRBは模索していくと予想する。

 ドットチャートに従えば年内2回、来年4回というイメージになるが、来年に関しては新大統領の下での1~3月期を見極めないことには確たることは言えまい。