中国版マーシャルプランか

 また中国の対アフリカ支援で特徴的なのは人材育成で、アフリカには中国語教師と職業訓練研修講師がすでに1万人以上育成されている。2019年の統計によれば、中国はアフリカ学生に毎年5万件の大学奨学金を提供し、そのうち10%が安全保障部門の人材だ。

 46のアフリカ国家には孔子学院が設置され漢語教育が提供されている。アフリカの公用語は概ね植民地時代の宗主国の言葉が使われてきたが、今後中国語がそれに取って代わっていく可能性もある、ということだ。

 習近平の対アフリカ政策は、単なる鉱山など資源略奪や経済支配、あるいは軍事拠点化といった物質いし的な狙い以上に、アフリカに中国式のイデオロギー、秩序、理念、価値観、統治ルールを浸透させることを重視している。ドルの代わりに人民元を流通させ、英語の代わりに中国語を公用語化させ、旧宗主国のアフリカにおける影響力を中国が塗り替えるつもりでいる。

 7月に行われた三中全会で、習近平は米国市場・産業チェーンとのデカップリング方針を強く打ち出し、中国式現代化モデルを途上国に提示し、グローバルサウスの盟主となって、新たな国際社会の枠組みを構築するという野心もはっきり打ち出している。総人口13.7億人のアフリカを中国化すれば、その中国の夢、習近平の野望は一気に現実味を帯びるだろう。

 これを、第2次大戦後の米国による西欧への復興支援計画になぞらえて「中国版マーシャルプラン」と呼ぶ人もいる。

 そこまで考えていくと、習近平のアフリカへの金のバラマキは酔狂でなく深謀遠慮だ、ということになる。だが、経済が地を這う状況で、地方財政も破綻寸前のところが多く、官僚、警察の給与が遅延し、若者の4割がまともに職を得られない中国が、本当にアフリカ53カ国13億人以上を現代化できるほどのパワーを持ち続けられるのだろうか。

 そしてもう一つの大きなテーマは中国人の根強い差別意識だ。私は中国人とアフリカの人が真に平等に付き合い価値観を共有し友情を築くのは相当難しいと思うのだが。

福島 香織(ふくしま・かおり):ジャーナリスト
大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。おもに中国の政治経済社会をテーマに取材。主な著書に『なぜ中国は台湾を併合できないのか』(PHP研究所、2023)、『習近平「独裁新時代」崩壊のカウントダウン』(かや書房、2023)など。