「私はうまく処理を行った」と満足げな道長

 ドラマでは、その後、興福寺の僧たちが大極殿前の朝堂院に押し寄せてくると、道長は検非違使を使って追い払っている。それでも定澄は諦めずに道長との面会を希望し、それがかなうと、4つの要求を道長に突きつけた。

「南都に引き上げるには、次のことをお約束くださいませ。1つ、大和守が申した寺の僧が、当麻為頼邸を焼き払ったこと、および田畑を踏みにじったことをお調べいただきたい。2つ、大和守・源頼親を解任していただきたい。3つ、右馬充・当麻為頼を解任していただきたい。4つ、我らの蓮聖(れんしょう)が公の法会への参列を止められておるのを免じていただきたい」

 その要求に対して道長は、「いかなる理由があろうとも、屋敷を焼かれ田畑を荒らされた方を罰するのは理にかなわぬ。よって、1、2、3の申し入れは受け付けぬ」と3つを即座に却下した。

 4つ目については、興福寺の暴挙を受けて、数千人の僧侶や俗人を率いた僧・蓮聖に対して、朝廷は公の法会への参列を禁じていた。それを解除してほしいというのだ。これについてのみ、「蓮聖のことを頼みたいなら、いま一度そのことだけの申文を出せ」と保留した。

 実際の道長も、毅然とした態度で興福寺の要求を退けたようだ。上記の興福寺からの4つの要望と、それに対する道長の裁定は、ドラマのオリジナルの展開ではなく、『御堂関白記』に書かれている通りだ。頼親は無罪とされ、為頼の職も停止されることはなかった。

 道長の対応について、側近の藤原行成は「僧たちの愁訴は大いに道理を失っている。道長の命を受けて黙らされることになった」〈『権記』寛弘3(1006)年7月15日分〉と評価。道長自身も「私はうまく処理を行ったものだ」(『御堂関白記』同年7月14日分)と満足している。

 ただ、ドラマでの定澄は、道長にただ押し切られて終わったわけではなかった。部屋から退出して廊下に出ると、同行者の慶理に「よかった。ひとつでもこちらの望みが通ったならば上出来だ」と安堵の表情を浮かべている。

 何とも食えない僧たちだが、道長は十分に渡り合ったといえよう。

NHK大河ドラマ『光る君へ』で藤原道長役を熱演する俳優の柄本佑さん藤原道長役を熱演する俳優の柄本佑さん(写真:共同通信社)