思想はほとんど無関係

 なお、これら3点は思想がほとんど無関係だということで結びついている。

 トランプについて衝撃的だったのは、彼なら支持者を失うことなく街頭で「誰かを撃てる」ということではなかった。

 過去には数多くのデマゴーグが同じ主張をしたかもしれない。

 トランプに過去のデマゴーグとは異なる、何か新しい面があるとしたら、それは――移民問題は例外かもしれないが――ほとんどの問題においてほぼどんな路線でも取ることができ、それでいて有権者の支持を失わずに済むということだ。

(反ワクチン派のトランプ・ファンの一体誰が、トランプがコロナワクチン接種を推奨したことを気にしたか?)

 トランプを分析するためのレンズとしてはもともと不向きだった1930年代の独裁政権には、何らかの「目標」があった。

 共産主義やイタリアの未収地回復運動(イレデンティズモ)などだ。

 その点、トランプ現象には教義や学説といったものがあまりなく、その分だけほかの指導者に引き継がせることが難しい。

 トランプ後の時代は政治が安定するなどという見通しを社交の場で披露したりすれば、知的でない人物に見えてしまうことは避けられない。

 マルクス主義者という言葉が資本主義の終焉を望む人を意味するのであれば、西側諸国のエリートはマルクス主義者ではない。

 だが、世界を動かしているものは個人を重視しないことが多いと考えているという意味では、マルクス経済学の影響を受けている。

 何かもっと大きな力が働いているというわけだ。

「歴史の裏側」とか「歴史の弧」への言及が普通に行われる文化では、物事の筋書きはすでに半分出来上がっているという見方が暗黙のうちに受け入れられている。