ルール変更で全国的な人気を最大限に活かす

「古い自民党をぶっ壊す」といって総裁選に打って出た“変人”の小泉純一郎氏(在任2001年4月〜2006年9月)です。森氏の退陣に伴う2001年4月の総裁選で、小泉氏は圧勝。「聖域なき構造改革」「改革なくして成長なし」といった短くて分かりやすいスローガンも国民の間に広く浸透しました。

 小泉内閣の発足直後、内閣支持率は歴代最高の84%に達します。派閥やカネの問題で国民に見放されていた自民党は、一気に蘇生するのです。政治学者の山口二郎氏(法政大学法学部教授)はこの政治状況を「小泉の『自民党をぶっ壊す』という叫びに国民が熱狂したのは、それまでの自民党に対する嫌悪や絶望が社会に蔓延していたからこそである」(「自民党を蝕んだ小泉政治」)とし、古い自民党が破壊されていく様子を見たかったのだと評しています。

 実際、小泉首相は、郵政民営化を最大の争点にした2005年9月の衆院選で、民営化に反対する党内議員の選挙区に“刺客”と呼ばれた対立候補を次々と送り込みます。「私の政策に反対する者はすべて抵抗勢力」と叫ぶ演説は、各地で喝采を浴びます。その結果、自民党は圧勝。郵政民営化に賛成しない議員は次々と落選する結果を生んだのです。

 もっとも、小泉氏が初勝利した2001年4月の総裁選でも、ルールの変更が行われました。都道府県連の持つ「地方票」をそれまでの1票から3票に増やし、かつ、得票数が多い候補がそれぞれの「地方票」を総取りする仕組みにしたのです。全国的な小泉人気を最大限に活かすため、退陣したばかりの森氏が作らせたものだと言われています。

 小泉政権後、自民党総裁は福田康夫氏、麻生太郎氏などへと顔ぶれを変え、その後は戦後最長となる安倍晋三総裁の時代を迎えました。また、この間は清和研が総裁のポストを長く握った時代でもあります。

安倍晋三氏の死去後、自民党には再び「政治とカネ」の問題が浮上した。写真は2015年撮影(写真:AP/アフロ)

 ただ、ここに来て、自民党は再び「政治とカネ」の問題で窮地に立たされました。自民党安倍派(清和研)を中心とする一連の裏金事件で、約90人もの自民党国会議員が派閥からの還流金を政治資金収支報告書に載せず、裏金としていたことが発覚したからです。総額6億円近くとされる裏金問題は、刑事事件としてもほとんど立件されていません。岸田文雄首相も裏金問題の解明と解決に至る手腕を発揮できないままでした。

 自民党の中に沈殿したかのような「カネ」の問題。今回の総裁選では、戦後長らく決着できなかったこの問題に、終止符を打つことができるのでしょうか。それとも過去の多くの総裁選や国政選挙がそうだったように、表向きの清新さが強調され、政治とカネの問題は後景に退いてしまうのでしょうか。

フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。