挫折を乗り越え続けた経験は、今後のサッカー人生で大きな武器になる

ブンデスリーガで活躍した岡崎慎司さんと現在ドイツで挑戦を続ける水多選手の対談。海外を知る2人が語るサッカー選手に必要なメンタルとは?

ーー中学卒業後、FC東京U-15むさしからユースに昇格することはかなわず、前橋育英への進学を決断されました。大変心苦しいのですが、その時の心境をお聞かせいただけますか?

水多海斗 やはり、悔しい気持ちがすべてでしたね。たしかに中学2年までは試合に出れませんでしたが、3年時にはチームの全国優勝に貢献し、優秀選手にも選ばれました。正直、ユースに上がれるのは当然のことだと思っていました。

 しかし、監督と親との三者面談で『残念だけど』と昇格できないことを告げられて……その瞬間、頭の中が真っ白になりました。もう高校サッカーしか選択肢がないことは理解できていたんですけど、その事実を認めることはできませんでしたね。「また挫折か……」と。

岡崎慎司 じゃあ、すぐに気持ちを切り替えて高校進学を選んだわけではなかったんだね。なかなかポジティブにはなれなかったというか。

水多海斗 はい。心の中が100%ネガティブ思考になっていました。

――そこからどうやって気持ちを持ち直したのでしょう?

水多海斗 時間が解決したわけではありませんが、1週間ぐらい経った時に、コーチから「複数校から声がかかってるよ」と連絡がきたんです。

 それでもう一度面談をして、いくつかの学校の練習に参加した中で良いと思えた前橋育英に進学することを決めました。

 スポーツ科に特待として入ることができたので、親の負担を考えたらベストなルートだとも思いました。

岡崎慎司 俺らの時代からすれば前橋育英に行くってめちゃくちゃすごいことだけどね。サッカーでプロの道に進む未来も見えてくるし。

水多海斗 その考えは僕も若干ありました。前橋育英はプロをたくさん輩出していますから。

――それほどの高いレベルの中で、自分はやれるという手応えはありましたか?

水多海斗 初めて練習に参加した時から自分が一番上手いのは感じていましたし、「ここで試合に出れないことはまずないな」という感覚は入学初日からありましたね。

岡崎慎司 それはすごいな。俺の滝川第二時代はそんなメンタルなかったから。

 兵庫県トレセンで試合に出てる人らが同学年にいて、その下っ端だったし、上の2〜3年生はもう別格。俺はダイビングヘッドしかできなかったよ(笑)。

水多海斗 (笑)。ただ、やはり僕は自分のサッカーの上手さにだけ頼ってしまうところがあったので、高校でも納得いかないことがあるとコーチに反抗してしまうことは結構あったんです。

 そのペナルティーでボールを触らせてもらえず、草むしりや、グラウンドネットの保守管理をやったりと、また試合に出れない時期が続いてしまいました。

 せっかく中学時代にチームプレーの大事さを理解できたのに、Jリーグ下部組織で結果を残したことで、変に鼻が高くなっていたのかもしれません。

 自分の意見を一方的にぶつけたり、反抗することは誰でもできる。でもこのままだと本当に試合に出られない。それを何度も自分に言い聞かせながら、心の中の弱い水多海斗と向き合い、方向性を変えていきました。

 自分の良さを消さずに、チームのためにハードワークができる。そんな上手くて、 良い選手になれるように。

 ですが、高校3年生になってこれからっていう時に、怪我をしてしまって。

 朝起きてすぐに涙があふれてしまうぐらい本当につらくて、悔しくて……。だけど、最後の全国高校サッカー選手権には絶対に出てやるという思いで、なんとかスタメンとして出場できるまでには回復することができました。

 その後、すぐにはプロになる夢は叶いませんでしたけど、最低限のことはしっかりやり切れたのかなと思います。

――その大会で敗れた相手は尚志高校でしたが、当時は2年生に染野唯月(現・東京ヴェルディ)がいました。彼はプロ注目の逸材でしたが、水多選手は挫折を繰り返したことで順風満帆にはいかず、高卒でプロ入りする基準には達しなかった。でもだからこそ、いまの水多選手はサッカー選手として「本当の上手さ」を、ドイツの地で手にしつつあるように思えます。

水多海斗 ありがとうございます。僕は本当に何度も壁にぶち当たり、納得いかない時間をたくさん過ごして、苦しみ続けてようやくドイツ3部まで上がることができました。これからもきっと、上のステージを目指していく中で新たな壁は必ずあります。

 けれど、いままで挫折を繰り返し、何枚もの大きな壁が目の前を立ち塞がってきましたが、それを乗り越えてきた経験がある。

 どんな難題に直面しても、解決策を導き出せる自信があるんです。

 それはサッカー選手としても、ひとりの人間としても大きな長所になっているので、中学高校の6年間は、いまの自分を形成する上では欠かせない時間だったなと思います。 (文/佐藤主祥)

本対談フル動画はこちら
『【ビーレフェルト・水多海斗×岡崎慎司】「毎年数百人の日本人選手がドイツに来るけど、ステップアップしている選手は数名」』