育成に定評のあるドイツには多くの指導者が、学びに行く。そのドイツでリーグ10連覇を達成している名門がバイエルンだが……(写真:アフロ)

欧州サッカーが日本サッカーより数段進んでいることは確かである。そこで学ぶ必要性もある。

しかし、そのとき何を見て、どう感じ、得たものを日本で生かすことを考えなければいけない。

プロサッカー選手・岡崎慎司が日本スポーツ界の「育成」や「場所」「戦術」について、専門家を招き対談をする「dialogue w/(ダイアログウィズ)」で、ドイツで長きにわたり指導をするドイツサッカー協会A級ライセンス保持者・中野吉之伴氏を招いた。

中野氏はそのときの岡崎の言葉をヒントに、長年感じてきた「違和感」について言及する。

物見遊山の「最先端巡り」

 日本から欧州に研修旅行に来られる方は少なくない。

 今はコロナ禍だからまだ難しいところはあるが、コロナ前はそれこそ欧州のいろんなところに、いろんなクラブやいろんな協会から指導者や役職の人が足を運んでいた。

 とても熱心にたくさんメモを取り、映像を撮り、こちらにも様々な質問をぶつけてこられる方がたくさんいる。その情熱と学習意欲は素晴らしい。

 ただ一方で物見遊山気分の人と遭遇する例もそれなりに見聞きする。僕自身もそうだし、指導者仲間からもそうした声を聞くことが少なくはない。

 例えば《バイエルン》《ドルトムント》という世界に名だたるビッククラブの施設を見学し、驚いて、感心して、満足して日本に戻られる。そのこと自体が悪いわけではない。

 でも、「バイエルンの施設はすごかったです」くらいの感想なら、小学生が夏休みにする自由研究のほうがはるかに価値がある。

 研修旅行ではなく、数か月、それこそ数年間欧州に出たという人でも、表面的な情報しか持ち帰れない人だって結構いたりするのが現実だ。

 世界でもトップレベルのクラブを研修することに意味がないなんてことはない。

 世界有数の施設がそこにある。最新鋭のトレーニング器具がある。最先端の戦術理論も見聞きできるかもしれない。でも僕らが学ぶべきことはそうしたところではないという見識を持つことは、とても大切なのではないだろうか。

 海外で12シーズンプレーをし続けている、岡崎慎司が配信する「dialogue w/」で行った対談(「マリオ・ゲッツェに見る『育成でできる限界』」)でもまさに岡崎がそのあたりに言及していたのが印象的だった。

「ビッククラブよりもこだわりをもったクラブのほうが参考になるんじゃないかって。(対談で話した)佐伯(夕利子)さんのいるビジャレアルとか、中野さんが関わったこともあるフライブルクとか。世間的にはビッククラブではないけど、たくさん参考にするべきところがあるクラブや地域が存在するんじゃないかと思うんです」

日本サッカーとドイツサッカーの「育成」や「組織」の差、互いの課題などを2時間を超えて話し合った岡崎慎司選手と中野吉之伴氏(著者)。写真:dialoguew/より

 クラブとしての規模や世界的なランキングからではわからないことはたくさんある。

 自分目線や自己の経験基準でクラブを値踏みするようなアプローチは損しかない。例えばだけど、こんなことがあった。