領土紛争は新段階にエスカレートする恐れ

 今年に入り、中比両国による南シナ海の領有権を巡る対立が激化している。

 比国は、同国のEEZ内で実効支配するセカンド・トーマス礁(タガログ語:アユンギン礁)に、揚陸艦(シエラマドレ号)を意図的に座礁させた軍事拠点を確保している。

 そこに物資を運んでいた補給船や巡視船に対し、中国海警船などが衝突や放水、レーザー照射などの攻撃的・威圧的な行動を繰り返してきた。

 そして、3月23日には、中国海警船が比の補給船に放水砲を発射し、乗組員3人を負傷させ、補給船に損傷を与えるなど深刻な事件に発展した。

 この事件は、比軍人が負傷した最初の事件ともなった。

 次いで6月17日、中国海警船は、セカンド・トーマス礁付近で、フィリピン軍の拠点に向かう補給船に乗り込み検査を行う暴挙に出た。

 中国は、国内法を根拠に「臨検」を行ったと見られ、その際、海警船が比国の補給船に体当たりし、小型ボートや銃器を押収するとともに同軍の複数の乗組員を一時拘束した。

 乗組員たちはその日のうちに解放されたというが、比関係者は「乗組員のうち1人が指を切断する重傷を負った」と明らかにした。

 このような事態の悪化を受け、比外務省は7月21日、南シナ海のアユンギン礁(セカンド・トーマス礁)にある同国軍拠点への補給活動を巡り、中国と仮協定に合意したと発表した。

 比外務省は仮協定の詳しい内容には言及しなかったが、「両国は、南シナ海における状況を沈静化させるとともに、対話と協議を通じて相違を克服し、同海域を巡る相手側の立場を損なわないことで合意する必要性を認識し続ける」とした。

 その矢先に起こったのが前述した最新の事件である。

 中国は、国際法や国家間の約束を守る意思など毛頭ないことは明らかで、最新の事件の2週間前には、中国空軍の戦闘機がスカボロー礁上空で哨戒任務に当たっていた比空軍機の前方に照明弾を発射した。

 また、南シナ海では比国と米国、日本、オーストラリア、カナダなどのパートナーとの間で共同パトロールが行われているが、これに対しても、中国の軍艦が執拗に尾行しているのが確認されている。

 このように、中国の攻撃性の増大を背景に、南シナ海における中比の領有権を巡る対立は次第に激化する様相を呈している。

「南シナ海波高し」であり、今後、両国の領土紛争は新たな段階にエスカレートする恐れを含みつつ推移すると見られる。