米国の与党が変わると世界はどうなる?

 この戦争によって、民主党は雪崩のように支持者を失う可能性が出てきました。主なポイントは2つ。

 第一に、民主党内の人権重視派、リベラル派の支持を失う可能性があります。

 バイデン政権は「人種間の融和、女性の権利拡張」に努め、多くのマイノリティを政権高官に登用してきました。それゆえ、かつて政権の岩盤支持層だった彼らは、ガザ地区でのイスラエルの凄惨な行為によって離脱していくでしょう。

 第二に、アラブ人やイスラム教徒の支持が急落する可能性があります。

 米国のアラブ人有権者は300万人程度と言われ、人口の1%程度に過ぎません。しかし、選挙の逆転劇の舞台は接戦州(スイングステート)です。そこで数万人単位でアラブ人・イスラム教徒の支持離れが起きたどうなるか。

 トランプ氏には投票しないとしても、彼らが白紙投票か第三の候補者に流れれば、オセロゲームのような逆転劇が起きるかもしれません。

「世界の警察、やめました」という米国は、民主党も共和党もかなり似た外交政策をとってきました。外交政策の基本ラインは両党とも同じです。

 しかし、2024年にトランプ氏を擁する共和党が勝利を収めたら、世界の政治が激変する可能性もあります。

 欧州(ウクライナ)、中東(ハマス・イスラエル)、中国の三方面への対応が、絶大な力を持つ大統領によって変わるかもしれません。

 中国に対しては関税など貿易政策においてはより強硬策に打って出ることは間違いなく、脱炭素やダイバーシティ・人種差別への対応についても退行するでしょう。

トランプ氏が当選すれば、ウクライナに対する支援が削減される可能性がある(写真:Douglas R. Clifford/Tampa Bay Times via ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ「ZUMA Press」)トランプ氏が当選すれば、ウクライナに対する支援が削減される可能性がある(写真:Douglas R. Clifford/Tampa Bay Times via ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ)

 また、「アメリカ、ファースト!」でウクライナへの軍事支援が大幅削減されたら、ロシアが軍事的に優位になり、ウクライナ領土での侵略・支配が拡大し、欧州がますます不安定に。

 対中東(ハマス・イスラエル)では、「よその国の人道支援とか興味ないよ!」とイスラエルへの一方的支持が強まり、アラブ諸国・イスラム諸国だけでなく、国際社会全体が混迷に。

 トランプ氏の属人的な政策もありますが、共和党自体も同じ傾向があります。たとえば2023年11月、共和党が多数を占める下院ではイスラエル支援として140億ドル(約2兆円)もの予算を可決。ところがウクライナへの支援については慎重です。

 ハマスの行動は、トランプ氏当選を引き起こし、国際社会を未曽有の混乱に陥れる危険があります。政党はそもそも“変数”ですが、トランプ元大統領はその影響力をさらに強めるXです。国際社会はもっと留意して対応していかなければならないでしょう。(了)

山中俊之(やまなか・としゆき)
著述家/芸術文化観光専門職大学教授

 1968年兵庫県西宮市生まれ。東京大学法学部卒業後、1990年外務省入省。エジプト、イギリス、サウジアラビアへ赴任。対中東外交、地球環境問題などを担当する。首相通訳(アラビア語)や国連総会を経験。外務省を退職し、2000年、日本総合研究所入社。2009年、稲盛和夫氏よりイナモリフェローに選出され、アメリカ・CSIS(戦略国際問題研究所)にて、グローバルリーダーシップの研鑽を積む。
 2010年、企業・行政の経営幹部育成を目的としたグローバルダイナミクスを設立。累計で世界96カ国を訪問し、先端企業から貧民街・農村、博物館・美術館を徹底視察。ケンブリッジ大学大学院修士(開発学)。高野山大学大学院修士(仏教思想・比較宗教学)。ビジネス・ブレークスルー大学大学院MBA、大阪大学大学院国際公共政策博士。京都芸術大学学士。コウノトリで有名な兵庫県但馬の地を拠点に、自然との共生、多文化共生の視点からの新たな地球文明のあり方を思索している。五感を満たす風光明媚な街・香美町(兵庫県)観光大使。神戸情報大学院大学教授兼任。
 著書に『世界94カ国で学んだ元外交官が教える ビジネスエリートの必須教養 世界5大宗教入門』(ダイヤモンド社)。近著は『世界96カ国をまわった元外交官が教える 外国人にささる日本史12のツボ』(朝日新聞出版)。