トランプ大統領がパリ条約から離脱してしまったように、「内向きの共和党は、気候変動問題のようなグローバルな政策に後ろ向きだ」と言われます。しかし、ここにもロビイストの影があることを忘れてはなりません。

 共和党には全体的に石油関係の企業や組織の献金が多い。つまり「温暖化ガスを気にしてばかりいたら、うちの会社が潰れちゃうよ!」という企業の意向に忖度することもあり得ます。

 グローバルな政策は、国を超えた産業とも関連があります。生成AI「ChatGPT」で知られるOpenAIのCEOサム・アルトマンの解任と復帰が話題を呼びましたが、EUはAIの自由な活用に対して慎重であり、世界的には「巨大IT産業には規制が必要」という方向です。

 米国全体は世界の中ではテクノロジー推進派であり、ワシントンにいるロビイストの中には巨大IT企業から来た人がかなりいますし、献金も相当額に上ります。たとえば、アマゾンの2022年のロビー活動金額は2100万米ドルを超えて、民間企業で第1位。回転扉が普通の米国では、ロビイストに転じた元政府高官も少なくありません。

米国政治に大きな影響力を持つ「ユダヤ人票」

 米国はイスラエルに次いでユダヤ人が多い国です。750万人とも言われる有権者数を誇り、米国政治に大きな影響力を持ちます。ロビー活動はもちろんのこと、経済界、エンターテインメントやメディア、そしてアカデミックな世界と、あらゆる場面でそのパワーは強大です。

 トランプ元大統領は「対イスラエル政策でやや前のめりだった」との印象が私にはあるのですが、これは共和党というよりも「義理の息子がユダヤ人」というトランプ氏の個人的な理由もあるでしょう。

 また、トランプ氏の支持基盤である福音派が、聖書の記述通り「カナン(パレスチナ)の地はイスラエルの土地」と考えていることも影響しているに違いありません。

 そして政党という見地から言うと、民主党も共和党も対イスラエル政策では歩調を合わせてきました。背景には、それぞれの理由があります。

 ユダヤ人は、伝統的に人種・民族の多様性に寛大な民主党支持者が多いとされてきました(ただし、支持政党は常に流動的)。バイデン大統領のイスラエル支持の背景には、ハマスの背後にいるイランへの警戒感も大きいものの、再選に向けてユダヤ人支持者層をつなぎとめる意味もあります。

 2023年、イスラエルとハマスの武力紛争が勃発し、その1年後に選挙を控えた両党の動きは注目すべきものです。

 戦闘開始直後、米国をはじめとする世界は、最初に攻撃を仕掛けたハマスを批判。再選をかけるバイデン政権は、ユダヤ人支持者をつなぎとめるためにイスラエル支持を鮮明にしています。

 ところが、イスラエルのガザ地区への攻撃で国際社会の潮目が変わりました。無惨に爆撃された病院、子どもを含む多数の死傷者──。残忍さを目の当たりにした世界各地でイスラエル批判のデモが沸き起こり、もちろん、米国も例外ではありませんでした。

 その結果、イスラエル支持のバイデン政権の支持率は下降気味で大統領選に影響がありそうです。