正捕手として積み重ねた痛恨の敗北

 入社3年目、正捕手になって2年目の都市対抗。日本通運は準々決勝で、優勝した三菱ふそう(川崎市)と対戦する。1-1の同点で迎えた8回表に1点を勝ち越し、逃げ切りを計るが、その裏、ふそうの8番打者・佐々木勉に逆転2ランを打たれ、2-3と土壇場でうっちゃられた。

「この指(自分のサイン)で打たれたホームランでした」と言う。

 攻めの配球で強力打線をソロ本塁打1本に抑えてきた。ここでもポンポンとツーストライクに追い込んだ。打者のタイミングが少し遅れていると感じたので、投手にクイックで投げるよう指示する。それで逆にタイミングが合ってしまった。左投手のスクリューボールを外に要求したが、やや甘く入った。

「あの終盤で、引っ張られてホームランは絶対に許されない。打球が(逆方向の)ライトだったのでちょっと救いはあるんですが、長打を避けようと思って、外角中心の配球になったのが裏目に出ました」と悔しそうに振り返る。

 その翌年の都市対抗では、連覇を狙ったふそうに準々決勝でサヨナラ勝ちしてベスト4に進出。しかし続く準決勝で、TDK(にかほ市)を相手に5-1とリードしながら、反撃を食い止められず、7回表にTDKの4番・佐々木弥に逆転満塁ホームランを浴びる。7-8で逆転負け。「あれもホームランだけは絶対ダメな場面で、打ち取りに行ったフォークボールを上手く拾われました」

逆転満塁ホームランを放ったTDKの佐々木。キャッチャーは鈴木(写真:共同通信社)逆転満塁ホームランを放ったTDKの佐々木弥選手。キャッチャーは鈴木選手(写真:共同通信社)

 前年のふそうに続き、この年のTDKも優勝。2年続けて優勝チームの勢いに飲まれるようにして敗れた。正捕手として試合に出続ける中で、こうした痛恨の試合を何度も経験してきた。そういう苦い記憶を一つひとつ積み重ねていくことで、捕手は成長していく。

 そして、投手との力関係も逆転していった。

 組み立てを考えて投げられない投手には、「俺がバッターを見るから、お前はまず構えたところに投げてくれたらいいよ」と指示する。打たれて、ベンチで監督やコーチが怒っている時には、マウンドに行って、「俺のせいにしていいから。サイン通りに投げたって言え」と声を掛けた。

「困ったら真ん中でいいから」と言うこともあった。「真ん中に入ったって、そこで待たれていなければ打たれないんだから」と。それを見抜くことが捕手の仕事だと思っていた。だから、ちょっとした仕草で打者の狙いがわかるかもしれないと、心理学の本にも手を出した。

 リード(配球)は結果論と言う人もいる。ただ、鈴木はこう言う。

「たしかに結果論ですけど、それを『なんとかできなかったかな』という勝負の世界なんで。以前、『勝った試合でも、反省が残らない試合なんてキャッチャーにはない』と誰かに言われたことがあります。完封しても、キャッチャーって『ここはこうしておけばよかった』という反省が絶対に残るんです。それを常に次に活かしていく。その繰り返しの毎日でした」