大学の恩師の手紙に書かれていたこと

 今、コーチとしてキャッチャーを育てている。今年、日本通運は長く正捕手を務めてきたベテランの木南了から、若手の山本空へとレギュラーが交代した。「同じレギュラーでも、与えられたのと、勝ち取ったのでは、やっぱり勝ち取った選手のほうが長くやれている気がする」と鈴木は言う。

 木南もそうだった。ちょうど鈴木がコーチになった時で、1年目に試合に出られず、「なんとしてでも出たい」とガツガツ向かってきた。だから山本にも、先輩たちを押しのけて試合に出してもらっている中で、「周りが『あいつは努力しているから』と認めてくれるような姿を見せろよ」と口うるさく言っている。

「なかなか報われなくても頑張ってる選手、いますよ。僕らも人間なんで、やっぱり頑張っている選手を試合で使ってあげたい。でも、勝たなきゃいけない。だから、頑張って結果を出してほしいといつも願っているんです。毎年新しい選手が入ってきたら、それだけの選手がやめていく世界なんですから。一年一年勝負していくしかないんですよ」

 コロナ禍で野球部の活動もままならなかった時期、大学時代の恩師の内田俊雄から手紙が届いた。亜大の監督を退任後、拓殖大の監督を務め、勇退後は野球の現場から離れている。内田は監督として関わった多くの教え子への思いを書面にしたためていて、それを鈴木に送ってくれた。

 内田は今も、「小山良男の時の2番手キャッチャー」と、指導者講習会などでよく鈴木の話をするという。

「どこかで花開かせたいと思ってくれていたのかもしれませんね。でも『強いところでやりたい』と自分で選んできた道なんで。『どこかで見返してやりたい』という気持ちはありました。それが大学でできなくても、どこかで、と。そういう強いところでやれたから、人にも恵まれたんだと思います」

 手紙には、「控え捕手から社会人野球で日本代表へ。誇りに思う」と書かれていた。(了)

【矢崎良一(やざきりょういち)】
1966年山梨県生まれ。出版社勤務を経てフリーランスのライターに。野球を中心に数多くのスポーツノンフィクション作品を発表。細かなリサーチと“現場主義"に定評がある。著書に『元・巨人』(ザ・マサダ)、『松坂世代』(河出書房新社)、『遊撃手論』(PHP研究所)、『PL学園最強世代 あるキャッチャーの人生を追って』(講談社)など。2020年8月に最新作『松坂世代、それから』(インプレス)を発表。