例えばファウンドリのSMICなどの中国半導体メーカーは、経済原理を完全に無視して、2023年9月1日の前までに、膨大な台数のArF液浸をASMLに発注したものと考えられる。そのため、ASMLは全力で、中国向けのArF液浸を製造しただろう。

 しかし、中国が発注したArF液浸の台数は、ASMLの製造キャパシティーをはるかに超える規模だったため、2023年9月1日までに製造することができず、「受注残」として積み上がっていたものと思われる。

 その結果、ASMLは、その中国向けArF液浸の「受注残」を、2023年9月1日以降も製造し、中国に出荷し続けていたのだろう。そのようにして、中国向けのArF液浸の出荷額が2024年Q2に、過去最高となったと考えられる。

 では、中国(特にSMIC)は、何台のArF液浸を購入したのだろうか?

2022年Q3以降に中国が購入したArF液浸

 図3に、ASMLによる四半期の各種露光装置の出荷台数の推移を示す。2020年Q4から2022年Q3までの動向を見ると、ArF液浸は概ね四半期に20台出荷されていることが分かる。

図3 ASMLの四半期ごとの各種露光装置出荷台数
出所:ASML決算報告書のデータを基に筆者作成
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 それが、2022年Q4以降は、20台を大きく超えるようになる。この20台を超えたArF液浸は、全て中国が導入したと仮定してみよう。すると、中国が導入したArF液浸は、2022年Q4に2台、2023年Q1に5台、Q2に19台、Q3に12台、Q4に9台、24年Q1はゼロで、Q2に12台ということになる。合計すると、その台数は59台にのぼる。

 そして、上記では、四半期20台のArF液浸に中国向けはないと仮定している。ということは、もしかしたら2022年Q4から2024年Q2にかけて、中国が購入したArF液浸は、59台以上になるかもしれない。

 さらに、今年2024年Q3以降も、中国向けにArF液浸が出荷される可能性がある。つまり、中国向けのArF液浸の「受注残」は、現在においても解消されていないかもしれない。となると、今後もASMLは中国向けにArF液浸を作り続け、出荷し続ける可能性がある。