一体、中国(の特にSMIC)は、2023年9月1日までに、何台のArF液浸を発注したのだろうか? その全容は、今後のASMLの決算報告を見てみないと明らかにならないが、もしかしたら100台以上のArF液浸を発注したのかもしれない。となると、中国は向こう5年分くらいのArF液浸を買い占める行動に出た可能性がある。

中国の買い占めで「世界的ArF液浸不足」に

 ここまで示してきたように、中国がASMLに、2023年9月1日の前に膨大な台数のArF液浸を発注し、その期日を過ぎてもASMLが作り切れなかったArF液浸が「受注残」として積み上がっていると考えられる。

 この中国によるArF液浸の買い漁りにより、世界ではArF液浸不足が起きている模様である。ArF液浸は、45nm、32nm、28nmの成熟ノードはもちろん、16/14nm、10nm、7nm、5nm、3nmなどの先端ノードの半導体製造にも必要不可欠の露光装置である。

 ここで、改めて図2に示したASMLの地域別出荷額を見てみると、中国が驚異的に出荷額を増大させている一方で、台湾への出荷額が急速に低下している。その原因には、2023年にコロナ特需が終焉して半導体不況に陥ったことから、TSMCなどが設備投資を絞った影響もあるかもしれない。

 しかし、図2の台湾への出荷額の低迷は異常である。この原因としては、中国がASMLに膨大な台数のArF液浸を発注したため、台湾(特にTSMC)がArF液浸を導入できない事態になっている可能性がある。図2をよく見ると、米国と欧州もArF液浸不足に見舞われているように思われる。

 現在世界では、各国・各地域が半導体の製造能力を確保しようとして、異常な数の半導体工場を建設しつつある。それは日本も例外ではない。しかし、中国によるArF液浸の買い占めが続くようなら(何となくそうなりそうだが)、世界の半導体工場が稼働できない事態になってもおかしくない。

 ASMLが今後、中国にどれだけArF液浸を出荷し続けるのか? その動向に注目したい。