写真提供:CFOTO/共同通信イメージズ

 スマホやパソコン、家電、自動車など、生活に密着した機器の製造に不可欠な半導体。生成AI時代の到来でその重要性は増しており、米中覇権争いが熾烈(しれつ)を極める中、経済安全保障における最も重要な戦略物質と目されている。一方で、製品はメモリ、CPU(MPU)、センサーなど多種多様、多数のメーカーが製造工程ごとに世界中に点在しており、産業構造はあまり知られていないのが実態だろう。そこで本連載では、日本電気で一貫して半導体事業に携わった菊地正典氏の著書『教養としての「半導体」』(菊地正典著/日本実業出版社)から、内容の一部を抜粋・再編集。

 第3回は、日本企業の主戦場である半導体製造装置業界について、製造工程と主要企業を概説する。

<連載ラインアップ>
第1回 インテル、サムスン、キオクシアだけでない、約530兆円の「半導体巨大市場」を構成しているのはどのような企業か?
第2回 ソニー、キオクシア、三菱電機、東芝…日本勢はどんな製品で世界と戦っているのか?
■第3回 先端露光装置の分野で日系企業を追い抜いた、覚えておくべきオランダのメーカーとは?(本稿)
第4回 世界が注目するエヌビディアとTSMCは、なぜライバル関係にないのか?
第5回 TSMC日本進出の背景、次世代半導体の量産を目指すラピダスの課題とは?

※公開予定日は変更になる可能性がございます。この機会にフォロー機能をご利用ください。

<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者フォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
会員登録(無料)はこちらから

製造装置業界は「前工程」向け、「後工程」向けの 二つに分かれる

教養としての「半導体」』(日本実業出版社)

 製造装置メーカーは、半導体の製造、すなわちシリコン(ケイ素)の基板上に多数のチップをつくり込む前工程向けと、完成した1個1個のチップを組立・検査する後工程向けの二つに大きく分かれます。そして、前工程に使われる装置をIDM企業やファウンドリー企業(前工程対応)に提供し、後工程用の装置をIDM企業やOSAT企業(後工程対応)に提供します。

■ 前工程の特筆すべき製造装置メーカー

 下の図「半導体製造工程の概略」を見ていただければ、前工程・後工程の中にどのような細かな工程があるか、それらがどのような順になっているかがおわかりでしょう。そして製造装置メーカー、材料メーカーがそれぞれの工程の装置・材料を提供します。また、ファウンドリー企業は前工程に、OSAT企業は後工程に対応していることがわかるでしょう。

 細かい話は後の章にゆずって、ここではこのような工程があり、それらを生産している企業としてどのようなメーカーがあるのかについて簡単に触れておくことにします。下の図表が前工程用の主な製造装置とその代表的メーカーです。

 どの企業もそれぞれの工程で重要といえますが、その中でも特に覚えておきたい企業がASML(オランダ)です。ほかにもアプライド・マテリアルズ(AMAT:アメリカ)、ラムリサーチ(アメリカ)、そして日本企業の東京エレクトロン(TEL)、アルバック、表にはありませんがディスコ、レーザーテック、村田機械なども覚えておきたい企業です。

 ASML(オランダ)は先端露光装置に特化した企業で、それまでこの分野で強かったキヤノン、ニコンを一気に突き放しました。

 なお、ASMLとは別にASMインターナショナル(オランダ)という企業もあります。これは同じ製造装置企業で、CVD(シリコンウエハー上に必要な薄膜を堆積させる装置)やALD(薄膜を1原子層ずつ堆積させる装置)などの成膜装置、あるいは拡散炉など幅広い装置を扱っています。名前が非常によく似ていますが、ASMLとASMインターナショナルは同じオランダ企業ではあっても別企業です。

 アプライド・マテリアルズ(アメリカ)はAMATと略されることも多い企業です。CVD、ALD、スパッタ、メッキなどの成膜装置、ドライエッチャー、CMP装置(シリコンウエハーの研磨)などの代表的企業です。ラムリサーチ(アメリカ)も同様に、ドライエッチャー(薄膜を部分的に除去)、CVD、CMP装置、メッキ装置、ウエット洗浄装置(半導体の洗浄:半導体製造プロセスの30~40%を占める)の企業として知られています。