「最後の晩餐」のパロディーで物議を醸した開会式の演出(提供:TV France 2/Best Image/アフロ)

 フランス・パリで開催されている第33回オリンピック競技大会の開会式は「多様性」がテーマで、コンサバティブな人々にははなはだ評判が悪かったようだ。そうしたなか、台湾については少し興味深い出来事があった。

 フランスのテレビ司会者が台湾選手団入場のとき、「チャイニーズ・タイペイ、私たちがよく知る台湾です」とわざわざ言い換えて解説していたのだ。フランスというと親中的だと思われていたが、少なくともフランスメディアは、台湾に好意的であるという印象を台湾人自身が受けたようだ。

 折しも、台北ではIPAC(対中政策に関する列国議会連盟)年次総会が開催され、台湾が民主主義国家の重要なパートナーとして見直されていることも可視化されてきた。頼清徳新政権がスタートしてまもなく始まったパリ五輪は、台湾が国際社会にその存在感を問う上で意外に大きな影響力があるかもしれない。

(福島 香織:ジャーナリスト)

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 7月26日に開幕式が行われ、それぞれの選手団は船に乗ってセーヌ川を下る入場パレードをおこなった。台湾代表団は頭文字Tの集団の第74番目の船で、タジキスタン、タンザニア、チャドの選手団と同乗。旗手はバドミントン女子の戴資頴選手で、手に持つ旗は中華民国の花・梅の花と五輪徽章をかたどった五輪団旗だ。

 台湾は「チャイニーズ・タイペイ」という名称でオリンピックに登録、出場しているが、開幕式ライブを中継していたフランス2のテレビ司会者が「チャイニーズ・タイペイ、我々のよく知る台湾です」と紹介、国際スポーツ試合に出場するときはチャイニーズ・タイペイの名義で登録していることなどを説明した。

開会式でボートで入場する台湾チーム(写真:ロイター/アフロ)

 フランスのテレビ局が、チャイニーズ・タイペイと登録名を読み上げたのち、わざわざ、「我々のよく知る台湾」と言い換えたことは、フランスでも、また国際社会においても、台湾は台湾として認知されているということを確認した格好だ。今の若い世代は、チャイニーズ・タイペイと言っても、何のことか、ピンとこないだろう。

 台湾中央通信によれば、台湾の教育部体育署署長の鄭世忠は「台湾は中国に隷属するものでは決してないということを、このパリ五輪開幕式のライブを見る何百万人もの観衆に司会者が特別に説明した」と評価したそうだ。このことをきっかけに、台湾内外で、そろそろオリンピックほか国際スポーツ試合での台湾選手や台湾チームの登録名義をチャイニーズ・タイペイ(TPE)からタイワン(TWN)にするべきではないか、というオリンピックのたびに起きる議論が再燃した。

 ここで、台湾とオリンピックをめぐる歴史を振り返ってみよう。