梅子の夫・徹男が亡くなったため、遺産相続問題が浮上し、寅子が家裁の特例判事補として調停を担当することになったため、再会した。3人の息子と姑、妾の要求はそれぞれ違ったから、泥沼化の様相を呈していた。テーマである法の下の平等から逸れてしまったようにも見えた。

 だが、そうではなかった。旧民法では長男の単独相続だったが、新憲法下で改正された新民法では夫婦平等、複数の子供も平等、男女も平等。テーマである法の下の平等を相続という観点で描くには、梅子を再登場させるのが最適だったのである。

新憲法、新民法で人々の暮らしはどう変わったか

 この物語には確固たる哲学もある。誰もが幸福を追い求めている。寅子が新憲法に触れた際、第14条と同様に心を震わせた条文も幸福追求権が保障された第13条である。

 ところが、第62回で梅子は再会した寅子やよね、轟に対し、「懐かしいわ。戻ったみたい、私の人生が一番輝いていたあのころに」とつぶやく。相続権争いに疲れ果てているときの言葉とはいえ、まるで幸福をあきらめてしまったようで、この物語らしくなかった。

 しかし、第65回に梅子の態度は一変する。相続を放棄し、大庭家を出ることになった梅子は、晴れ晴れとした表情だった。そして寅子の親友で義姉の猪爪花江(森田望智)に対し、こう言った。

「この先、人生を振り返ったとき、女子部で学んでいたときが一番幸せと言って死んでいくのはイヤッ」

 短い時間に、なにが梅子を変えたのか? それは寅子のラジオでのスピーチである。第64回だった。