寅子は女性向けの情報番組に出演した。そこでアナウンサーから「連日、(家裁に)かよわいご婦人方が相談に来られていると?」と問われると、こう語る。

「私はご婦人方をかよわいとは思っていません。裁判所に相談に訪れるご婦人は、世の中の不条理なこと、辛いこと、悲しいことと戦ってきた、戦おうとしてきた、戦いたかった人たちです」

 ここで代議士の立花幸恵(伊勢志摩)から「でも術がなかった?」と尋ねられると、寅子は「その通りなんです」と声を強め、こう続けた。

「それが、法律が変わり、家庭裁判所が出来て、やっと戦うことが出来る、報われる、誰かの犠牲にならずに済むようになった。女性たちが自ら幸せを掴み取ってほしいと思います」

 ラジオの前に座った梅子は神妙な面持ちで友人の言葉に耳を傾けた。自分も誰かの犠牲にならず、新たな幸せを掴もうと思い直したのだ。寅子の言葉によって、あるべき自分を取り戻した。

コントチックなシーンも見事にこなす確かな演技力

 この物語は仲間たちによるエンパワメントの物語でもある。学生時代は高等試験(現・司法試験)の合格に向け、それぞれが仲間のためのエンパワメントを見せた。エンパワメントとは何らかの事情があって、本来の持ち味を出せていない仲間がいるとき、周囲がその人らしさや能力を発揮できる環境をつくることである。

 たとえば、1935年だった第19回、共亜事件で寅子の父親・猪爪直言(岡部たかし)が逮捕されると、よねら仲間は勉強を放り出し、無罪の証拠集めに駆けずりまわった。1938年だった第27回には、朝鮮からの留学生・崔香淑(ハ・ヨンス)が、自分は帰国が決まり、もう高等試験は受けないにもかかわらず、勉強会の幹事役を続けた。

 次に寅子たちがエンパワメントによって得るものは何かというと、それぞれの幸福だろう。

 伊藤沙莉の演技は相変わらず抜群。1949年1月2日という設定だった第56回、前年の大晦日まで働いた寅子のところに上司である最高裁家庭局長・多岐川幸四郎(滝藤賢一)から電報が届く。「キュウヨウアリ」。自宅に呼び出された。

「人使いが荒い」と憤りながら多岐川宅に行く寅子。その庭にはフンドシ一丁の多岐川が仁王立ちしていた。「待ちかねたぞ、佐田君」。寅子は「えっ、この状況、何?」と茫然とする。

 滝行が好きな多岐川が、水行をしながら家庭裁判所の5大基本性格を明かすためだった。水を浴びせる役を命じられた寅子は「そんな大事なことをなぜこのような状況で……」と首を傾げ続ける。

 しかし多岐川は「いいんだ」と言うばかり。寅子は求めに応じて水をかけた。もっとも、最後は言い出しっぺの多岐川が「寒い!」と悲鳴を上げる。寅子は終始渋い表情だったが、多岐川とともに観る側の笑いを誘った。

 このようなシチュエーションコント(登場人物の食い違いや不条理さで笑わせる)には相当の演技力が必要。ちょっと想像すると分かるが、同じ状況をこなせそうな俳優はそういない。