近年のドラマではあまり見られない光景だが、戦争では約310万人もの同胞が犠牲になったのだから、あっても当然の場面だ。まして1947年だった第50回には闇米を食べなかった同級生で東京地裁裁判官の花岡悟(岩田剛典)が餓死している。激動の時代を生きられた者たちの思いは特別なのだろう。

NHK『虎に翼』番組HPより
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 若者同士が数年ぶりに会うだけで、滂沱の涙を流した時代。戦火を映さなくても、あの時代の悲劇性と異常性が鮮明になった。

「法の下の平等」の骨太テーマ

 一方で終戦時の玉音放送はなかった。寅子にとっての戦前と戦後の境界線は第44回(1946年)の新憲法との出会いだから、それでよかったのではないか。

 朝ドラでは定番の主人公の幼少期も描かれなかった。寅子が法律に目覚め、志を立てたのは女学校最高学年のときなのだから、これも理にかなっていた。吉田氏は古典芸能のようにパターン化した「朝ドラらしさ」のようなものに縛られたくないのだろう。

 ドラマの中にはストーリーの途中でテーマがどこかへ置き去りにされてしまうものも珍しくないが、『虎に翼』は違う。

 第61回(1949年)から再登場した大庭梅子(平岩紙)に関するエピソードが象徴的だ。梅子も明律大の同級生。在学中から3人の息子がいた。寅子とは1938年だった第29回以来、会っていないから、11年ぶりだった。

NHK『虎に翼』番組HPより
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