難しいテーマでも逃げない姿勢

 演出も凝っている。遊び心もある。家裁の広報活動の一環である「愛のコンサート」に、朝ドラの前作「ブギウギ」の主要登場人物の1人・茨田りつ子(菊地凛子)が出てきたのもその1つ。第65回だった。

NHK『虎に翼』番組HPより
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 今後の大きなヤマ場となりそうなのが、寅子のモデルの三淵嘉子さんが東京地裁時代に右陪席裁判官として関わり、1963年に判決が出た「原爆裁判」である。被爆者が国を訴えた民事訴訟だった。判決は国の賠償こそ認めなかったものの、「原爆投下は非人道的、無差別爆撃で国際法違反」と厳しく断罪した。

 画期的内容で、当時の新聞は各紙とも1面トップで報じた。世界も注目した。しかし、重いテーマであるため、この物語が扱うかどうかは予測しにくい。あえて読むと、やるだろう。この物語は男女不平等や民族差別などドラマが避けがちな話からも逃げていない。

 7月1日からの第14週で、やはり難しいテーマである尊属傷害致死を扱うことが予告されていることも原爆訴訟を扱うと読む根拠だ。尊属殺とは自分や配偶者の直系尊属を殺害することであり、かつては罪がより重くなった。重罰規定である。

 1950年に尊属傷害致死事件の最高裁判決が出るにあたって、この既定は第14条に反し、違憲だとする裁判官が2人いた。その1人が寅子の恩師・穂高重親教授(小林薫)のモデルとされる民法学者・穂積重遠である。ただし、穂積の意見は通らず、それどころかほかの裁判官たちに猛批判された。

 しかし、この重罰既定が既にないのはご存じの通り。端緒は1968年に起きた栃木県実父殺人事件である。14歳から父親に性的暴行を受け続け、5人の子供を生ませられた20代後半の女性が、恋人との結婚を許してもらえず、やむなく殺害した。

 最高裁判決は1973年に出た。まず懲役3年6月とした東京高裁判決を破棄。さらに尊属殺の重罰規定は法の下の平等に反するとして無効とし、あらためて判決懲役2年6月、執行猶予3年を言い渡した。

 このときの最高裁の審理を行った裁判長は石田和外。桂場桂一郎(松山ケンイチ)のモデルである。

 史実の通りに進むかどうかは分からないが、今後もドラマチックな展開になるのは間違いない。