日本初の「ユニコーン」に名を連ねようとしているSakana AI(同社のロゴ)日本初の「ユニコーン」に名を連ねようとしているSakana AI。赤いサカナにも意味がある(同社のロゴ)
  • 日本発のスタートアップが「ユニコーン」に名を連ねようとしている。創業わずか1年のSakana AIだ。
  • 同社が他のAI企業と異なるのはその開発手法。生物が進化していくように、複数のAIモデルを組み合わせ、より高性能なモデルを生み出していく。
  • 欧米中心の大規模な開発アプローチが幅を利かせる中、Sakana AIの「進化的モデルマージ」はどこまで通用するだろうか。

(小林 啓倫:経営コンサルタント)

国内最速でユニコーンになろうとしているサカナ

「ユニコーン(一角獣)」と呼ばれるベンチャー企業がある。ベンチャー企業の中でも、特に革新的な製品やサービスを手がけ、急速に成長する企業を「スタートアップ」と呼ぶことがある。そうしたスタートアップの中で、さらに大成功を収めた企業が「ユニコーン」と呼ばれる(見つけようとしても見つからないほどレアな存在なので、想像上の生き物であるユニコーンに喩えられてこう表現されている)。

 実は、ユニコーンには明確な定義があり、企業としての評価額が10億ドル(約1600億円)以上で、設立10年以内の未上場スタートアップのみが該当する。

 よく挙げられる代表例には、イーロン・マスクが設立した宇宙開発ベンチャーであるSpaceX、世界中の若者に受けているSNSプラットフォームTikTokの運営会社ByteDance、同じく世界中で人気を博しているゲームFortniteの運営企業であるEpic Gamesなど、錚々たる企業が並んでいる。

 そんなユニコーンに、国内企業として史上最速で到達しようとしているスタートアップがある。革新的なAI開発を手がけているSakana AI(サカナAI)がそれだ。

 同社は2023年7月に設立されたばかりの企業で、東京に拠点を置いている。日経新聞の記事によれば、2024年6月中にも、その評価額がおよそ11億ドルに達するという。設立10年どころか1年以内にユニコーンの条件を満たしてしまう勢いである。

 3人の共同創業者はそれぞれ輝かしい経歴の持ち主だ。まずCTO(最高技術責任者)を務めるライオン・ジョーンズ氏は、Google AIの元研究者で同社に12年間勤務していた。現在の生成AI革命のきっかけをつくったと言われる「Attention Is All You Need」という有名な論文があるのだが、何を隠そう、彼はその著者の1人だ。

 CEOを務めるデビッド・ハ氏は、同じくGoogle AIの元研究者で、同社に6年半在籍している。またGoogle退社後は、一時期Stability AI(画像生成AIモデルの「Stable Diffusion」を開発し、急成長を遂げている英国のスタートアップ)の研究トップとしても活動していたという経歴を持つ。

 そして、COOを務める伊藤錬氏は、日本の外務省出身で、その後はフリマアプリでお馴染みのメルカリで執行役員を務めている。メルカリではグローバル事業を担当しており、Sakana AIの組織づくりに過去の経歴を活かしていると報じられている。

Sakana Aiのライオン・ジョーンズ氏(左)とデイビッド・ハ氏(写真:共同通信社)Sakana Aiのライオン・ジョーンズ氏(左)とデイビッド・ハ氏(写真:共同通信社)

 これだけでもSakana AIに大きな注目が集まっている理由が分かるかもしれない。とはいえ創業者の経歴だけで、立ち上げて間もない企業が10億ドル以上の評価額を得られるほど甘くはない。なぜSakana AIがここまで評価されているのか、他の理由についても解説していこう。