岡本秀樹という空手家

 岡本秀樹という人物は、国士館大学の出身で、当時、30代前半の既婚者だった。1970年にシリアに渡り、シリア、レバノン、エジプトの警察や軍に空手を教えていた空手家だ。エジプトでは、外国人や富裕層が住むカイロのザマレク地区で「サニー」というスーパーマーケットも経営し、女性関係は積極的だったという。

 同氏の生涯については、毎日新聞論説委員の小倉孝保氏による『ロレンスになれなかった男 空手でアラブを制した岡本秀樹の生涯』(2020年KADOKAWA刊)という本がある。同書の中には、岡本氏が国士館大学に働きかけてカイロに建設した武道センターの総裁になれなかったハーテム氏が逆恨みし、岡本氏に妻を奪われたエジプト人と結託して、警察と内務省を動かし、食品管理法違反という微罪で、岡本氏を国外追放しようとしたというエピソードが出てくる。権力者の意向で、規則や法律が簡単に捻じ曲げられるエジプトという国の実態をよく表すエピソードである。

学歴詐称疑惑を報じない大手メディアのひどさ

 小池氏の学歴詐称に関しては50年近くにわたって疑われ、石井妙子氏が北原百代氏の証言にもとづいて「文藝春秋」2018年7月号に『小池百合子「虚飾の履歴書」』というレポートを発表して以来、積極的な追及がなされてきた。

 しかし、追及してきたのは、上田令子議員など都議会の一部、郷原信郎弁護士、フリーのメディア関係者などで、大手メディアは文藝春秋、日刊ゲンダイと、最近になって東京新聞が取り上げる程度にすぎない。テレビや全国紙はいまだにほぼ沈黙状態で、日本のマスメディアはいったいどうなっているのかと思わされる。

 大手メディアが本件を取り上げないのは、週刊誌ネタを後追いしたくないというプライドとか、本件はエジプトやアラビア語も絡んでいて一筋縄でいかないとか、東京都からもらう広告料を失いたくないといった理由が指摘されている。