恐竜の名前になった中国共産党古参幹部

 カウディプテリクスの名前については、中国ならではのちょっと興味深い話がある。

 熱河層群研究の大家でシノサウロプテリクスの報告者でもある季強によって名付けられた「ゾウイ」という種小名は、なんと中国共産党の重鎮・鄒家華(Zou Jiahua)にちなんで命名されたものなのだ。

 1926年生まれの鄒家華は日中戦争中の1944年に18歳で新四軍(人民解放軍の前身)に参加した古参の共産党員で、人民共和国建国後は主に理系分野の国家ポストを歴任し、副総理も務めた高官だった。

1997年、副総理として訪独し、ドイツのキンケル外相(左)と会談する鄒家華氏(写真:ロイター/アフロ)

 この鄒家華は1990年代後半、まだ学界では異論も多かった羽毛恐竜の研究に取り組む季強をバックアップしていた。そこで、感謝した季強が鄒家華にちなむ種小名をカウディプテリクスにつけることにしたらしい。

 すでにズオロンの記事でも述べたとおり、中国では政治的なリスクゆえに近現代史の人物の名前が恐竜の命名に用いられる例はあまりなく、国父である孫文や毛沢東でさえも(おそらく)恐竜の名前には用いられていない。鄒家華はかなり変わったケースだと考えていいだろう。彼は政治家としては地味な技術官僚だが、思わぬ部分で歴史に名を刻んだ形である。

 余談ながら、鄒家華は2023年11月現在も97歳で存命である。前年11月に死去した彼と同い年の元国家主席・江沢民の葬儀委員会にもしっかり名前が掲載され、さらに毎年の春節(旧正月)前に習近平らの党指導部が必ずおこなう老同志(引退した長老)への慰問リストにも名前が出続けている。老いたりとはいえお元気のようである。

恐竜大陸 中国』(安田峰俊著、田中康平・監修、角川新書)