ただ、23年の接触以来、日朝交渉が膠着状態に陥ったというニュースが最近、日本メディアを通じて報道された。今年5月22日、小泉・金正恩の日朝首脳会談20周年を迎えるこの日に前後し、日本のメディアは岸田政権の日朝交渉に対する悲観的な展望を相次いで出した。

 朝日新聞は「岸田文雄首相は北朝鮮の金正恩総書記との首脳会談に強い意欲を見せるが、水面下の交渉は膠着状態に陥っている」と報道した。

 産経新聞も「膠着状態を打破するため、北朝鮮側との極秘交渉ルートに活路を求めようとする姿は20年前の小泉政権と重なるが、岸田政権での取り組みが成果を上げられるかは見通せない」と伝えた。

 日経新聞は「2022年のウクライナ侵略後にロシアと北朝鮮が接近するなど、国際社会の分断の深まりが拉致問題の解決への道筋をより複雑にする」と伝えた。ロシアとの接近により北朝鮮側の経済的切迫感が減ったという指摘だ。

北朝鮮の「冷温戦略」

 にもかかわらず、「日朝両国が水面下での接触を続けている」という情報は韓国の政治家から発信されていた。たとえば今年5月8日、日本を訪問中だった朴炳錫(パク・ビョンソク)元国会議長は東京で開かれた韓国特派員らとの懇談会で、「全く意外なところで、(日朝が)何度も会って交渉を進行中だと把握している」と明らかにした。

 彼は「日朝交渉を支持するが、いかなる場合にも日本と北朝鮮が韓国を飛び越えて関係を進展させることはできないという考えを日本の政治家たちに話す」とも警告した。ただし、朴炳錫議長は、日朝が接触した場所について、「上海やシンガポール、モンゴルなど過去に利用した場所ではない」と話していた。

 そもそも今年1月、北朝鮮は岸田首相あてに能登半島地震の被害に対する慰労の電文を送り、岸田首相に対して「閣下」という異例の呼称をつけるなど、融和的なジェスチャーを送っていた。

 これに対して岸田首相が日朝首脳会談に意欲を見せると、2月15日、金正恩氏の妹である金与正・朝鮮労働党中央委員会副部長は「核・ミサイルと日本人拉致被害者問題に対する日本の態度変化があれば、岸田首相が平壌を訪問する日が来るかもしれない」という談話を発表した。

 しかし、日本側が拉致問題で譲歩するつもりはないとの姿勢を示すと、態度をコロッと変えた。3月26日、金与正氏は「日本は歴史を変え、地域の平和と安定を目指し、新たな朝日関係の第一歩を踏み出す勇気が全くない。日本側とのいかなる接触も、交渉も拒否する」として対話断絶を宣言した。

北朝鮮の金与正朝鮮労働党副部長(コリアメディア提供・共同)

 だがその言葉は本心ではなかったようだ。日朝の接触は最近になって再開されたものと推測されるが、北朝鮮は「冷温戦略」を駆使し、引き続き日本の譲歩を得ようとしている。