北欧2か国加盟で一変したバルト海の地政学
バルト海(Baltic Sea)は、ヨーロッパ大陸とスカンジナビア半島に囲まれた内海・地中海である。
周囲は、西にスウェーデン、東は北から順にフィンランド、ロシア、バルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)、南は、東から西にポーランド、ドイツ、デンマークが位置する。
出口は、カテガット海峡、スカゲラック海峡により北海に通じている。
バルト海のほぼ中央部に位置するスウェーデン領のゴトランド島は、古くから同海における戦略要衝を占めている。
ロシアは、フィンランド湾の奥の同国第2の都市・最大の港サンクトペテルブルクとバルト海沿岸の飛び地であるカリーニングラードにバルチック艦隊の基地を置いている。
ゴトランド島からわずか南東250キロのカリーニングラードには、バルチック艦隊の司令部があり、バルト海から欧州の海域に睨みをきかせている。
バルト海とその周辺国
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フィンランドは1948年、ソ連との間に、フィンランドの中立政策を認めた「友好協力相互援助条約」を締結して以来、軍事的中立政策を維持してきた。
しかし、2012年のロシアのクリミア半島併合と東部ウクライナへの軍事介入、さらに、2022年のウクライナへの全面進攻によって状況が一変し、危機感を募らせて2023年にNATO加盟を果たした。
スウェーデンも同様に、200年にわたる軍事的非同盟政策を変更し、NATO加盟による歴史的転換を決断して防衛体制を再編している。
両国のNATO加盟によって、バルト海沿岸国はロシアを除いてすべてNATO加盟国となった。
その結果、バルト海を巡る地政学は一変し、同海は実質的に「NATOの海」となり、ロシアのバルチック艦隊は「深刻な問題」に直面することになると指摘されている。
フィンランドは2023年12月、米国との防衛協力協定(DCA)に署名した。
これによって、米軍はフィンランドの主要な軍港である南部のポルッカラ海軍基地や内陸部の空軍基地、北極圏のロバヤルビにある欧州最大の砲撃演習場など、同国内の計15の軍事施設を使用できるようになる。
フィンランド政府高官によると、現在、国内に恒常的な米軍基地を置く計画はないとしている。
しかし、同協定は、ロシアとの間で軍事衝突が起きた場合に、米軍がフィンランドに迅速に展開できるようにするのが最大の狙いである。
スウェーデンも2023年12月、米国との間で同様のDCAを締結した。この最大の戦略的意義は、スウェーデン領ゴトランド島の存在である。
この島に、米軍をはじめNATO軍が駐留することになれば、バルト海における海上優勢のみならず航空優勢の獲得に大きく寄与することは間違いない。
また、スウェーデンは優れた潜水艦隊を保有し、機雷戦にも豊富な経験を持っており、バルチック艦隊との海上戦における重要な役割を果たすことも期待される。
なお、米国はバルト海の出口国であるデンマークとも近く同協定に署名する予定である。
このように、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟は、ノルウェー、デンマーク(いずれもNATO現加盟国)とともに北欧軍事同盟を形成する格好である。
また、ロシアを睨んだ米国の軍事的プレゼンスが北欧で拡大していくのは確実であり、対露地政戦略上大きな変化をもたらす切っかけとなった。