ヴィジュアル系っぽいギタープレイとサウンドメイク

 こうした布袋のギタープレイ、“キャッチーなイントロ”と“クリーントーンのカッティングプレイ”は日本独自のビートロックを象徴するギターサウンドの代名詞となった。そこにマイナー調のメロディと退廃的な雰囲気が加わると、“ヴィジュアル系っぽい楽曲”になる。

BOØWY「Marionette」(1987年)

 BOØWY「Marionette」(1987年)は、キャッチーなギターのイントロに始まり、刹那メロディとソリッドなバンドサウンドが織りなすミステリアスで退廃的な雰囲気の楽曲。まさに後年の黒服系、ヴィジュアル系シーンへと繋がる重要曲である。BUCK-TICK「悪の華」(1990年)、D'ERLANGER「DARLIN’」(1990年)、DIE IN CRIES「MELODIES」(1992年)、黒夢「for dear」(1994年)など、「Marionette」なくしては生まれなかったであろう名曲がシーンに数多く存在している。

 そして、ギター1本での表現の可能性を広げたことも布袋の凄さだ。それまで我が国のロックバンドといえば、ザ・ビートルズやローリング・ストーンズ、ベンチャーズの人気によって巻き起こった60年代のGS(グループサウンズ)ブーム、そして、CAROLやRCサクセションといった70年代のバンドをはじめ、その多くはボーカリストもギターを弾いていたり、リードギター&リズムギターといった、ギタリストが2人いるツインギター編成だった。加えて、80年代に入るとシンセサイザーの普及により、キーボードメンバーを入れることでサウンド面の拡がりと華やかさを持たせるバンドも増えていく。

 そうした中で、布袋は華やかで拡がりのあるフレージングとシンセサイザー的な多彩な音色を含め、楽曲アレンジのすべてをギター1本で担う新たなロックギターの可能性を導き出したのである。特に、ダビングなどを駆使したスタジオ音源とは異なり、すべてギター1本で完結するライブアレンジは秀逸だ。

BOØWY「Justy」(Live At Nippon Budoukan / 1986)

 プレイはもちろんのこと、時にギターとは思えぬサウンドを出すことで周りを驚かせた。『風の谷のナウシカ』に登場する王蟲の鳴き声を担当したことはその代表例だろう。“エフェクタリスト”という言葉が生まれるほど、エフェクターを駆使した多彩なサウンドを繰り出すことがシーンにおけるひとつのスタイルにもなった。BUCK-TICKの今井寿、DIE IN CRIESの室姫深といった、飛び道具なサウンドを武器とするギタリストたちの多くは布袋の影響を受けていた。“ヴィジュアル系にはエフェクターを多用するギタリストが多い”というのは現在にも通じるところだ。

 先述の「Marionette」同様、空間系エフェクトの掛かったクリーントーンの煌びやかなアルペジオやソリッドなカッティング、そして、トリッキーなエフェクターの使い方は、ヴィジュアル系っぽさを感じるギターサウンドの代名詞にもなっていったのである。