ガーランドの映画が描き出す世界

 監督のアレックス・ガーランドは1996年の『ビーチ』で小説家デビューした後(レオナルド・ディカプリオ主演、ダニー・ボイル監督で映画化)、映画脚本家やゲーム原作者をつとめ、「エクス・マキナ」(2015)で映画監督としてデビューを飾った。

 その後も「アナイアレイションー全滅領域」(2018)、「MEN―同じ顔の男たち」(2022)と、私たちの心の奥底にある不安や恐怖を映画的な手法を用いて描いてきた。

「エクス・マキナ」では、AIロボットに本当に知能があるかどうかを確かめる(いわゆるチューリングテスト)ことで人類がAIと共存できるのかという哲学的な不安、「アナイアレイション」では環境破壊などによって地球が滅びたときに人類はどうなるのかという恐怖、そして「MEN」では、主人公が休暇で訪れるある村に同じ顔の男性しかおらず、この社会にある「有害な男性性」から女性だけでなく男性も逃れることができないという恐怖を描いた。

 ガーランドの監督作品はすべて社会に蔓延する恐怖を題材にしており、最新作の「CIVIL WAR」も例外ではない。

テレビに映される大統領のスピーチを見つめる主人公リー(写真:A24提供)テレビに映される大統領のスピーチを見つめる主人公(写真提供:A24)

 映画の冒頭、テレビに映される大統領のスピーチを見つめる主人公リー(キルスティン・ダンスト)は、最年少でマグナム会員になった有名な戦争写真家で、映画の序盤、過去にアフリカなどの戦地でみた残虐な光景を何度も思い起こす。

 リーは写真家として、人命が非人道的に扱われる現場をいくつも写真に収めてきた。その目を覆いたくなるような暴力が、彼女の母国アメリカで起きている/起きようとしていることを危惧している。

 現実のアメリカでも、2021年1月連邦議会襲撃事件の直後には内戦が起きる、あるいはアメリカはすでに内戦状態にあるのだという報道は数多くなされていた。

 バイデンの大統領就任以降、国内では目立った左右対立はなく、むしろ問題になっているのはニューヨークでのアジアヘイトなど昔ながらの人種差別だ。しかし、大統領選挙の年に公開された本作は、大統領選が本格化する夏以降、トランプが扇動するあの狂騒が戻ってくるかもしれないという悪夢を甦らせる。